第418話 想定外の再会
「はぁ、ようやくコロッセオに行けるわね」
森で騎士達や村人達を打ち負され、フリージアの有無を言わせない態度に気おされた騎士達は、隊長の指示に従い、持ってきたボロ馬車にフリージアを押し込めると、コロッセオに向かって走らせていた。
ちなみに、リアスタ村からコロッセオまでは馬車で約30分かかる。
(なぜか、私の監視役として村長や村人の何人かが一緒に来たけど……今の建国祭って確か、平民は外出禁止のはずだけど)
騎士の隣で堂々と歩いている村人達を一瞥し、小さく溜息をついたフリージアは、騎士に連れられて森を出る前の時のことを思い出す。
「そう言えば、あの森に残った村人達が村長に何かを吹き込まれて、我が家や馬小屋を見てニヤニヤしていたわね」
(大方、家の物を盗った後、丸ごと焼くのでしょうけど。でも、そこは血術で守りを固めているし、あの2人がどうにかしてくれるでしょ)
「頼んだわよ、カトレア。そして、ラピスさん」
2人の友人の顔が頭に浮かび、思わず目を細めたフリージアは、窓に顔を近づけると空を見上げる。
家の外に出た時は真っ暗だった空が、森を出た時は今では徐々に明るくなり始めていた。
(いよいよ、なのね)
夜が明けきり、この国の建国を祝う音が鳴れば、この国の……ひいては、この世界の存亡をかけた戦いが始まる。
迫りくる決戦の時に、フリージアは馬車の中で1人、険しい顔をしながら空を睨む。
すると、馬車が突然、コロッセオ近くの街……旧都に入る門の前で急に止まった。
そして、フリージアを護衛していた騎士達と門を守護していた騎士達の間で言い争いが始まった。
「お前、ここから先に入ることを許されているのは、俺たちのような高貴な騎士と女王様が『捕らえて来い!』命じられた下賤な平民だけだと言われただろうが!」
「しかし、この者達は我らが女神様を信奉する同志達であり、あの下民の捕縛を協力してくれた者達! だから、王都に入っていいはずだ!」
「貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか! 建国祭の間は『平民は外出禁止!』とこの国の統治者であるノルベルト様が命じられていたであろうが!」
「だが、この者達は同志であるから、あの方たちのもとに連れて行くにはどうしても必要で……」
(あらあら、まさかの内輪もめですか。でもまぁ、強欲なノルベルトが改竄魔法を使っているのだから、遅かれ早かれこうなるとは思っていたけど)
「それにしても、ダリアのことを『女神』と呼んだり『女王様』と呼んだり……段々と、改竄魔法の影響が取り返しのつかないところまで来ているわね」
(それにノルベルトのことも、『創造神』や『統治者』と呼んで……一応、この国の統治者は他でもない国王陛下なのだけど)
対象者に改竄魔法をかけ続ける、または対象者の改竄する記憶が膨大だった場合、対象者の人格に大きく影響してくる。
だが、更に酷くなると支離滅裂なことを話し始めたり、思い込みが激しくなったりする。
これは、廃人化になる前兆になると言われている。
(でも、ここで時間を取られたら、お父様達の動きをノルベルトに感づかれる可能性がある。そうなる前に、ダリアやノルベルトがいるコロッセオに到着しないと!)
諍いを起こす騎士達に焦りを覚えたフリージアが馬車を出ようとした。
その時、門の奥から棘のある女の声が響いた。
「何しているの、あんた達! 建国祭の邪魔だからさっさとどきなさい!」
「っ!」
(この声って、まさか……!)
耳をつんざくような甲高い女の声に、フリージアは思わず肩を震わせる。
その女は、貴族としての品性の欠片もない女だった。
フリージアがまだ宰相家令嬢だった頃、フリージアが母と共にお茶会に出席する度に、母であるティアーヌに対して嫌味を言ったり罵ったりしていた。
また、常に露出の多いドレスを身に纏い、見目麗しい殿方に向かって豊満な胸を押し付けて誘惑していた。
そして、その女が生んだ子どもは、母を見習って気に入った殿方に色目を使って誘惑していることから、陰で『淫乱令嬢』と呼ばれて同性から白い目を向けられていた。
「どうして、あなたがいるのよ。カルミア・インベック」
門の奥から現れたのは、ノルベルトの妻でダリアの母であるカルミア・インベック。
今のペトロート王国で宰相家夫人として贅を尽くし、自分が気に入った容姿の整った殿方と淫らな悪戯に日夜興じている女である。
(念願の宰相家夫人になっても、相変わらず魔法で若作りをして殿方を魅了しているみたいね)
オレンジ色の髪にルビーのような真っ赤な瞳、誰を魅了する容姿を強調するような露出度の高い真っ赤なドレスに身を包んだカルミアの登場に、その場にいた騎士達が全員鼻の下を伸ばす。
そんな様子を窓越しに見ていたフリージアは、思わず眉を顰めるのだった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、新キャラ登場です!
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