閑話 ぼくのしめい(後編)
※ステイン視点です。
「早く行きなさい、ステイン!! これは命令よ!!!!」
僕に前の主が持っていたペンダントを託し、悪意を持った大勢の怖い人間達から逃がしてくれた主に命令され、僕はなるべく遠くへと駆けて行く。
主、僕、エドガスと約束したんだよ。『君を守る』って。それなのに、どうして僕は主を置いて逃げているんだ。
『ステイン、今日からあの方は、君の主であり君が守るべき方なんだよ』
ごめん、前の主。約束を破って、本当にごめん。
情けない気持ちがこみ上げてきて、何度も足が止まりそうになる。
けれど、その度に涙を堪える主の顔が脳裏を過り、止まりそうになる足を必死に動かす。
主は僕に生きていて欲しいと願った。それなら、僕は主の命令に従わないと。
朝日が差し込む森の中を必死に駆けていると、突然、主の魔力と怖い人間達の気配を感じ取れなくなった。
恐らく、主が張った結界の外に出たのだろう。
フリージア。僕の大切な主で友達……
エドガスから連れて来られた時、主は今にも泣きそうな顔をしていた。
それなのに、今では立派に仕事をこなしたり弱い人間達を守ったりしている。
そんな主に僕は何度助けられ、何度守ってもらっていたか。
情けない。本当に情けない。
結界を抜けた僕は、己の無力さを嘆きながらゆっくりと速度を緩めて森の中を歩いて行く。
すると、森を抜けて大きな草原に出てきた。
ここは、一体……
初めて見る光景に戸惑っていると、森の方から馬車が出てきた。
あれは……
その時、ほんの一瞬だけ馬車から主の魔力が感じ取れた。
主!!
怖い人間達に連れて行かれている主を目の当たりにして、無力な僕の中に沸々と怒りが湧いてくる。
『ステイン、今日のご飯はあなたの大好きなものばかりよ!』
『ステイン、今日もよろしくね』
『ステイン、私を魔物のいる方に連れて行って!』
脳裏に蘇る主の顔。
ダメだ。このままじゃダメだ。
僕は、エドガスとの約束を果たさないと!
何より、僕自身が彼女のことを守りたい!!
そう強く願った瞬間、僕に付けられた鞍に嵌め込まれた魔石から光がある方向に向かって一直線に放たれた。
その光は、僕にしか見えない光で、ある人間の魔力の気配を運んできてくれた。
これって……この魔力って、もしかして!?
魔石を通して感じ取れた魔力は、ここ最近、主のもとに来るようになった人間の魔力だった。
『ステイン、ご飯だぞ』
『ステイン、行こう』
『ステイン、今日もお疲れさん』
剣の鍛錬でよく主のもとに来るその人間は、主にとって大切な人で、僕にとっては友達みたいなものだった。
無力な僕だけなら主を助けることは出来ない。
でも、あの人間なら……主のことを大事に思っている人間なら、もしかすると主のことを助けてくれるかもしれない!
そう思った僕は、光が指し示さす方に向かって全速力で駆けていく。
待っていて、主! 今、助けに行くから!
その時、遠くから大きな音が聞えてきた。
建国祭が始まったのだ。
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