閑話 ぼくのしめい(前編)
※ステイン視点です。
「おはよう、ステイン。ご飯よ」
まだ夜がうちに、珍しく主がご飯を持って僕のお家に来た。
珍しい。いつもなら寝ているはずなのに。
「ごめんね、今日は朝から大事なお仕事があるから、早めに出ようと思って」
なるほど。それならそうと早く言って欲しかったな。
そんなことを思っていると、申し訳なさそうな顔をした主が僕の前にご飯を置いた。
おぉ、待っていました! さっそくご飯を……ってあれっ?
「ウフフッ、さすがステインね。今日は建国祭だからちょっと豪華にしてみたの」
あぁ、そう言えば昨日『明日はお祭だ』って言っていたね。
すると、主がレイピアを持っていることに気づく。いつもなら、仕事の時にしか携えてないのに。
そんなに今日の仕事は早いのだろうか。
レイピアをじっと見ていた僕に、視線に気づいた主が大事に使っているレイピアを僕に見せた。
「あぁ、これ。せっかく早起きしたから、今日は趣向を変えてレイピアを使って鍛錬しよう思って」
そういうことね。それなら納得だね。
主の言葉に納得した僕は、いつもより豪華なご飯にありつく。
「フフッ、今日はステインの大好物を全て乗せたから残さず食べるのよ」
もちろん! 全部僕の大好きなものだからちゃんと完食するよ!
「思えば、ステインと再会したのはここだったわね」
ん? 主が昔話なんて珍しいね。
顔を上げた僕に主が『ごめん、嫌なら止めるから』と申し訳なさそうに言う。
別に気にしていないから続けていいよ。それにしても、主がずっと申し訳なさそうな顔をしているのはなぜなのだろうか?
僕は主の笑顔が大好きなのに。
早起き主がずっと暗い顔をしていることに違和感を覚えながら、僕は目の前のご馳走にありつく。
うん、美味しい!!
「ステインには色んなところ見せたわね」
そうだね。泣いたり笑ったり怒ったり狼狽えたり……色んな主の顔を僕に見せてくれたね。
「まぁ、やんちゃなあなただから見せられたのかもしれないけど」
何それ。それを言うなら、主だってやんちゃだよ! いつも怖い人間達に立ち向かったり、魔物の大群に向かって剣を振るったり、僕以上にやんちゃじゃないか!
「それに、私の足として仕事の時は幌馬車を引いてくれて、魔物討伐で夜闇の森の中を駆けてくれたわね」
まぁ、前の主から与えてくれたお仕事だからね。主が変わっても僕は主のためにちゃんとお仕事するよ!
そんなことを思っているとあっという間にご馳走をした。
はぁ、美味しかった! 毎日、ご馳走だったら良いのに……
その時、森の奥から悪い気配を感じ、主の付けているペンダントが赤く光った。
この気配、怖い人間達の気配だ! でも、この森に人間は入ってこないし、ペンダントは魔物にしか反応しないはず。
突然ことに困惑している僕に対し、笑みを潜めた主は慣れた手つきで鞍型の魔道具を付ける。
え、主? 逃げるの? それなら、一緒に逃げよう!
そう思って息巻いていた僕だけど、主はポケットから前の主が持っていたペンダントを取り出すと、歯で親指を切って血を出し、その血をペンダントに嵌められた透明な石に垂らす。
「我が血を以って、目の前にいるものの姿と気配を消したまえ」
そう言うと、主は僕の首にペンダントをかけた。
「言ったでしょ? 今日は大事なお仕事があるって」
主、大事なお仕事ってもしかしてここから逃げること?
優しく微笑む主は、戸惑っている僕の手綱を引くと、壁になっているところを体当たりした。
すると、壁が開いて薄暗い森の風景が現れた。
これって……
「大丈夫よ、ステイン」
森の奥から禍々しい気配を纏った集団が迫ってくる中、優しく微笑んだ主は僕の手綱を離す。
「あなたはエドガスの残してくれた大切なもの。だから、私が客人を出迎えている隙に急いでこの森から離れなさい!」
そう言って、主が僕の尻を叩いた瞬間、僕はようやく理解した。
主は、悪い人間達から僕を守ろうと僕を逃がそうとしてくれているんだ!
そんなの嫌だ! どうせ逃げるなら主と一緒に逃げたい!
僕は前の主と約束してるんだ!
『フリージアを守って欲しい』って!
だから、君を置いて逃げるなんて出来ないよ!
『嫌だ!』と必死に抵抗していると、涙ぐんだ主が僕に向かって怒鳴る。
「早く行きなさい、ステイン!! これは命令よ!!!!」
前の主が亡くなり、新の主になった今の主は、僕に一度も命令をしたことない。
もちろん、前の主も僕に命令なんてしたこともない。
だって、前の主も今の主も僕に優しいから。
だからこそ、僕は涙を堪えながら命令する主に従った。
本当は嫌だ。でも、主が命令するから……心優しい主が僕を生かそうと命令するなら、僕はそれに従うしかない。
主の強い想いに負けた僕は、主の無事を祈るように主の頬を鼻で優しく撫でると家を飛び出し、そのまま魔物や人間の気配を感じない方に一目散で逃げた。
「それで良いの、ステイン」
全然良くないよ、フリージア。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
前話のステイン視点のお話です。
個人的に、ステインが最後にフリージアのことを『主』と呼ばず『フリージア』と呼んだところにグッと来てしまいました。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




