閑話 後方支援の誓い
「旦那様、お帰りなさいませ」
「あぁ、ただいま」
レクシャがいる屋敷を出た後、転移魔法が付与された魔道具を使い、護衛騎士と共に拠点である屋敷に戻ったユークは、留守を頼んでいた執事に声をかける。
「準備の方は?」
「全て整っております。後は、あちらの合図を待つだけかと」
「分かった」
足早に大広間に入ったユークは、レクシャのいる屋敷の大広間と同じような所狭しと並ぶ通信魔法が付与された魔道具と、その魔道具の前で静かに待機している伝達役の騎士達を見回す。
(ようやく、ようやく、この時が来たのだな)
ノルベルトの改竄魔法でペトロート王国が様変わりしてから、ユークは大きかった商会の規模を一気に小さくすると、細々と領地と商会を経営しながらレクシャの指示の下、水面下で反撃の準備を進めていた。
(本当は家族を巻き込まず、最後まで1人で成し遂げるつもりだったが)
「さすがに家族を騙すことは出来なかったな」
「旦那様?」
小さく笑みを零したユークは、小首を傾げている執事に『何でもない』と首を横に振ると、何人かの騎士達に指示を出す。
「家族に繋いでくれ」
「「「了解!」」」
ユークの指示で家族のいる拠点に繋げると、愛しい家族の声が魔道具越しに聞こえた。
「あなた?」
「父さん?」
「お父様?」
父からの連絡に不思議そうに声をかけられ、再び笑みを浮かべると、すぐさま笑みを潜めて口を開く。
「皆、心の準備はいいな?」
威厳のあるユークの声に、一瞬息を呑んだ家族は少しだけ口を噤む。
そして、妻と息子が覚悟を含んだ返事をする。
「良いわよ」
「もちろんです!」
明るい声で返事をする妻と息子に、少しだけ安堵したユークだったが、息を呑んだまま黙っている娘に思わず眉を顰める。
「マヤ。やっぱりシトリン君と対峙するが嫌なら、私のところに戻ってきても……」
「いえ、お父様」
『やはり、この作戦に参加させなければ良かった』と後悔をする父を裏切るように、娘は覚悟を含んだ声でユークに話す。
「私は、ミストラル家の者として、お父様から与えられた役目を最後まで果たしてみせます!」
(本当は、シトリン様と敵対するのは嫌。でも、ノルベルトの傀儡になって、シトリン様だけじゃなくて、私や私の家族を好き勝手されるのはもっと嫌!!)
銀色のレイピアを持った木こりの言葉に触発され、マヤは強引に父に迫って家族に隠れて行っている仕事やこの国の真実を知る。
そして、木こりの正体が仲の良かった貴族令嬢であることも解呪魔法が付与されたポーションを飲んで思い出した。
(それに、フリージア様がこの国のためにたったお1人で頑張っていらっしゃった。ならば、私もこの国のために頑張らないと!)
『婚約者のシトリンと敵対関係になってでも、与えられた役目を果たす!』と鬼気迫る返事をした娘の覚悟を聞いて、一瞬目を見張ったユークは思わず笑みを零す。
(フリージア嬢に会ったことで、おどおどして大人しかったマヤが、自信に満ちた気高くも逞しい貴族令嬢に成長した。本当に、頼もしい娘になってくれた)
この日のために母や兄と共に必死に勉強していたマヤを思い出し、ユークが笑みを深めるとすぐさま笑みを潜めた。
「そうか。それなら、妻や兄と共に務めを果たせ」
「はい!!」
「2人も頼んだぞ」
「もちろん!」
「分かりました!」
マヤの力強い返事と妻と息子の頼もしい返事を聞いて、安堵したユークは家族との通信を切った瞬間、鬼気迫る表情をした騎士がユークに声をかける。
「旦那様。本部から通信が入りました」
その瞬間、大広間が緊張感に包まれた。
「来たか。今すぐ繋げてくれ。そして、他の者は今すぐ各地へレクシャ様の声を繋げてくれ」
「「「「ハッ!」」」」
険しい顔をしたユークが指示を飛ばし、騎士達が魔力を流すと、大広間にレクシャの声が響き渡った。
『皆の者。先程、ロスペルからノルベルトが王城の地下にある魔法陣に魔力が注がれた事が報告された。注がれた魔力量からして魔法陣が崩壊するのも時間の問題である。各自、作戦に従い、迅速な行動を頼む』
「「「「「はい!!」」」」」
『『『『『はい!!』』』』』
ユークとその場にいた全員、そして魔道具の向こう側にいる者達全員が返事を告げると、レクシャが開始の合図を告げる。
『これより、ペトロート王国奪還作戦を開始する!!』
「「「「「おーーーーーー!!!!」」」」」
『『『『『おーーーーーー!!!!』』』』』
全員の士気が一気に高まり、レクシャとの通信が途切れると、ユークが声を張り上げる。
「みんな! この作戦の成功は、我々の働きにかかっている! そのことをゆめゆめわすれるではない!」
「「「「「はい!!」」」」」
『『『『『はい!!』』』』』
ユークの言葉でより士気が高まる。
ユークもまた、改竄魔法で爵位を下げられたせいで、事業が上手くいかなくなったり、ノルベルトや他の貴族から手酷く虐められたりするなど、ノルベルトに辛酸を舐めさせられていた。
(公爵様ほどではないが、私もノルベルトに対して恨みはある。だから、私は私のやり方でこの国をノルベルトの手から取り戻す!)
「頼みましたよ、公爵様」
(ノルベルトから必ずや何もかも取り戻してください。そのために、私はいるのですから)
遥か昔、サザランス家と共に帝国から王国に来たエピナント家。
代々、商会を経営しているエピナント家の現当主であり、ノルベルトから数々の仕打ちを受けたユークは、この戦いでレクシャ達が勝つことを信じ、持てる力を全て使って彼らの後方支援に尽くすことを改めて誓った。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、後方支援側の誓いをお届けしました!
彼らの熱い覚悟を受け止めていただけると幸いです。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)