第406話 後方支援(前編)
「入れ」
「失礼致します」
インホルトに促されて入ってきたのは、レクシャの協力者の1人で、ミストラル家の当主ユーク・ミストラルだった。
「公爵様、ご無沙汰しております」
「久しぶりだな、ミストラル侯爵殿。元気にしていたか?」
「はい、お陰様で家族ともども静かに生きておりました」
そう言って笑みを浮かべるユークの目の下には、濃い隈が刻まれていた。
(彼には物資の面で本当に助かっている)
「このタイミングで来たということは、帝国からの輸入していた対魔物護身用の魔道具がようやく平民に生き渡ったようだな?」
「はい、そうです」
約半年前、帝国に行く前にレクシャは、ユークに対魔物護身用の魔道具を輸入し、それを平民に行き届かせるように指示を出していた。
(ギリギリになるとは踏んでいたが、本当にギリギリになったな。だが、よく尽力してくれた)
ユークの返事に満足げの笑みを浮かべるレクシャだったが、ユークは険しい顔のまま話を続ける。
「それと、既にご報告させていただきましたが、帝国から仕入れた新型マジックバックを各地に人数分配布しました」
「それなら、インホルトと作戦を確認する前に通信魔法で全員に携帯するように指示したが……さすがだな」
「いえ、これも全て公爵様の采配あってこそ」
「いやいや、私はただ、マーザス殿本人から『ぜひ使ってください!』と説明されて、使えると判断しただけだ」
建国祭1ヶ月前。ルークは、レクシャの指示で新型マジックバックを大量に取り寄せた。
マーザスが開発したそれは、転移魔法と探知魔法が付与されており、マジックバックの中に入っている物が無くなれば、近くの補給拠点の屋敷に知らせが入り、不足した物資を屋敷からマジックバックに転移させて補給する。
遠距離から安全かつ確実に物資補給が出来る優れモノなのだ。
(補給拠点が断たれたら終わりだが……それでも、現地に行かずとも遠距離で補給物資が届けられるのはありがたい)
開発者であるマーザスに内心感謝しつつ、ルークは各拠点の配置について話す。
「それに伴い、西の拠点を私が、東の拠点を隣国の大商会出身である妻を配置し……そして、南と北の拠点には子ども達を配置しました」
「ということは……話したのだな?」
「はい。ご報告が遅くなり申し訳ございませんでした」
前々から『長男や妻がこの作戦に関して問い詰めてくる』とユークから相談を受けていたレクシャは、『時期が来れば話して良い』とある条件をつけて話す許可を出していた。
「構わない。となると……アレを飲んだのだな?」
「……えぇ」
渋い顔をしたルーク。
実は、家族に自分の仕事を一通り話す前、ルークはレクシャから貰った解呪魔法が付与された魔法ポーションを家族に飲ませた。
それが、レクシャがルークに出した条件だった。
(『私の仕事はこの国に背いていることだ。それでも私の仕事を知りたいなら、ポーションを飲め』と脅したら、ポーションを飲ませずに済むと思ったが……どうやら、私の家族は私が想像していた以上に逞しかった)
何の躊躇いもなくポーションを飲んだ家族に、ルークはレクシャから任された仕事を話した。
そして、仕事の手伝いを申し出る家族に、ルークはレクシャからポーションと一緒に渡された無効化魔法が付与された銀色の腕輪を付けることを条件に仕事を手伝ってもらうことにした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
という訳で、シトリンの婚約者マヤの父、ユークの登場です!
ミストラル家の当主であり、実は商会長である彼の手腕は、正しく凄腕でしょう!
さて、彼の活躍がどう作戦に影響するのか!
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)




