第394話 運命の引き金
「ノルベルトの魔の手……って、もしかしてノルベルトに正体がバレたってこと?」
深刻そうな顔のカトレアから言われ、目を見開いたフリージアは顔を真っ青にして問い質す。
すると、カトレアが小さく首を横に振った。
「いえ、あなたの正体はノルベルトにバレていないわ」
「だとしたら、どうして私が……?」
(プライドの高い悪徳騎士様達が、平民を毛嫌いしているノルベルトに私のことを言ったとは思えない)
すると、険しい顔をしたラピスが口を開いた。
「随分前、ダリアと対峙しただろ?」
「えぇ、女性の悲鳴を聞こえて駆けつけたら、マヤがダリアに襲われていて……」
「マヤ!?」
(マヤって、あのマヤ・ミストラルのこと!?)
聞き覚えのある名前に椅子から立ち上がったカトレアは、隣で言葉を失っているラピスの胸倉を掴んだ。
「あんた、まさかシトリン様が怖くて、知っていて私に黙っていたの!?」
シトリンが婚約者であるマヤを溺愛していることは、彼の知り合いであれば誰もが知っていた。
そのため、マヤに万が一のことがあった場合、普段は穏やかなシトリンが笑みを潜め、冷気を放ちながら容赦なく相手を追い詰めることももちろん知っていた。
だから、カトレアはラピスがそれを恐れてわざと自分に言わなかったのではと思い至った
鬼の形相で睨みつけるカトレアに、珍しく冷や汗を掻いているラピスは無実を訴えるように必死に首を横に振る。
「ち、違う! 俺が来た時は既に、ダリア嬢とフリージア嬢が対峙していたから知らなかったんだ!」
「本当~!?」
「本当だって! なぁ、フリージア嬢! 俺があの場に駆けつけた時は、既にマヤ嬢はいなかったよな!?」
救いを求めようとラピスがフリージアの方を見ると、紅茶を飲んで一息ついていたフリージアが小さく笑みを浮かべて首を縦に振った。
「えぇ、ラピスさんが来る前に私がマヤを助けたから、ラピスさんはマヤに会っていないはずよ」
「……それじゃあ、本当に知らなかったの?」
「だからそう言っているだろ!?」
縋りつくように見つめるラピスに、落ち着きを取り戻したカトレアは掴んでいた手を離すと大人しく椅子に座った。
「ごめん、ついカッとなっちゃった」
「まぁ、そんなことだろうと思った」
乱れた襟を直したラピスが気まずそうに視線を逸らすと、申し訳なさそうな顔で肩を縮こませたカトレアが視線をフリージアに戻す。
「まさか、ダリアがマヤを虐めていたなんて……あの子の家って確か、今は男爵家扱いなのよね?」
(本当は、私の家より家格の高い伯爵家なのに)
「そうね。だから、余計に虐めたくなったんじゃない?」
「意味がわかんない」
「分からなくていいと思うわ」
王都でのことを思い出し、うんざりするような顔で深く息を吐いたフリージアを見て、同情したカトレアが小さく笑みを零すと頬杖をつく。
「でも、相手が貴族だと分かっていて助けるなんて……相変わらずお人好しね」
(そんなところが好きなんだけど)
誰に対しても優しい親友を誇らしく思うカトレアに、不服そうに頬を膨らませたフリージアがそっぽ向いた。
「別に貴族だからって、助けないってわけじゃないわ。今回は、顔見知りだったからで……」
素直じゃないフリージアを見て、カトレアが仕方なさそうな笑みを浮かべると、ラピスが小さい咳払いをする。
「コホン。それで、その件がノルベルトの耳に届いたらしく、建国祭前日にフリージア嬢を拉致し、当日にフリージア嬢を見世物にしようとしている」
「見世物……それって、大勢の前で公開処刑をするってこと?」
表情を険しくするフリージアに、一瞬顔を強張らせたカトレアは静かに目を伏せた。
「そうよ。それも、建国祭の余興として行うみたい」
「余興ね……まぁ、ダリアに剣を向けた時に、ある程度覚悟はしていたけど」
(まさか、建国祭当日の余興の見世物になるなんて……本当、イカれてるわね)
常識を逸脱したノルベルトの思惑が一切理解出来ないフリージアは、呆れたように溜息をつくと冷めてしまった紅茶を飲み干す。
それを見たカトレアは、ティーカップに残っていた紅茶を飲み干すと小さく拳を握った。
「フリージア」
「なに?」
これから先のことを考え、疲れた顔をしているフリージアに、カトレアは懐を何かを取り出す。
「あなたには、建国祭までに隣国に逃げて欲しいの」
そう言って、カトレアはレクシャから託された物をテーブルに置いた。
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