第389話 長兄と殿下の仕事
「それじゃあ、リュシアン兄様もお父様から何か頼まれているの?」
(天才魔法師であるロスペル兄様にも頼んでいるってことは、次期公爵であるリュシアン兄様にも頼んでいるはずよね)
父の性格をある程度把握しているフリージアに、カトレアはリュシアンに与えられた仕事を口にする。
「リュシアン様は同じくヴィルマン侯爵家に身を寄せているジルベール殿下の護衛として」
「殿下の護衛!?」
長兄の任された仕事の大きさを聞いて、フリージアは思わず声を上げるが、同時に納得してしまった。
(確かに、リュシアン兄様と殿下は仲の良い幼馴染だから殿下もリュシアン兄様が傍にいたら安心されるかも)
リュシアンとジルベールが同い年であったため、リュシアンは幼い頃からジルベールの遊び相手として王城に何度も通っていた。
そのことをフリージアはリュシアン自身から教えてもらっていた。
加えて、フリージアは2人が仲良くしているところを何度も見たことがあり、ジルベールがサザランス公爵家に来た時はリュシアンやロスペルと2人で遊んでいた。
だから、フリージアは2人の仲の良さはそれなりに知っていたのだ。
(それに、兄様の剣術の腕は上級騎士様と肩を並べるくらいお強いから護衛としては申し分ない。けれど……)
「確か、殿下って今のペトロート王国では私と同じ存在しない者よね?」
それはこの場所に逃れて半年が経とうとしていた頃、フリージアはエドガスからこの国の現状を教えてもらった。
その中で、王太子であるジルベールがサザランス家と同じくノルベルトの改竄魔法によって消されたことを知った。
僅かに眉を顰めるフリージアに、渋い顔をしたラピスが口を開いた。
「フリージア嬢の言う通り、今のペトロート王国において殿下は存在を抹消された人間であらせられる」
「だとしたら、どうして……?」
「あなたと同じよ、フリージア」
「私と?」
首を傾げるフリージアに、カトレアはジルベールがノルベルトの魔の手から逃れられた経緯を簡単に話す。
「前々からノルベルトの話をサザランス公爵様から聞いていた陛下は、ノルベルトが殿下を消す可能性があると思い、公爵様に相談して殿下を王城から逃がしたのよ」
「陛下が……」
ノルベルトがインベック伯爵家を継ぐ少し前。国王はノルベルトが爵位を継いだ場合、真っ先に行動を起こし、障害となるジルベールを消しに来ると考えた。
だから、国王はレクシャに相談し、ジルベールを説得した上で彼を『とある貴族の領地視察』と称して王城から逃がしたのだ。
ちなみに、ノルベルトはジルベールに対しては『どこかで野垂れ死んでいる』と思っている。
「それで今、殿下はリュシアンのいるヴィルマン侯爵家に身を寄せていらっしゃるということね?」
「あぁ、正確にはヴィルマン侯爵領の領主邸に執事として身を隠されている」
「侯爵領で、執事をしていらっしゃるの!?」
(王家の方に執事の仕事をさせているのはいささか……いや、かなり恐れ多いわよ!)
少しだけ顔を引き攣らせたフリージアを見て、ラピスは思わず苦笑した。
「お前の気持ちも分かる。だが、王都から離れた場所であれば、ノルベルトと鉢合わせする確率も格段に下がるし、身分を偽っておけばノルベルトにバレる可能性も低くなる。それは、お前自身がよく分かっているはずだ」
「た、確かに……」
(王都から……というより、王城から一歩の出ないノルベルトを騙すならそれくらいした方が良いのは分かるけど……)
納得していない顔をするフリージアに、ラピスはレクシャから聞いたジルベールの様子を話した。
「それに、本人は楽しく執事の仕事をこなされていたみたいだぞ。『王太子よりも執事の方が性に合っている』とおっしゃられるくらいには」
「それは冗談でもやめて欲しいわね」
苦笑いを浮かべたフリージアは、ジルベールの護衛役にリュシアンを選んだ父の采配に心の中で感服した。
すると、今まで黙っていたカトレアが何かを思い出して顔を青ざめさせた。
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