第380話 茶番と闇魔法
「っ!」
(貴族達が魔力を練っている。って、まさか……!)
下卑た笑みを浮かべながら魔力を練る貴族達に、目を見開いたルベルはノルベルトに鋭い目線を向ける。
「お前まさか、最初から俺を陥れるつもりだったのか!」
声を荒げるルベルに、頬杖をついていたノルベルトがバカにした笑みを浮かべた。
「フッ、今頃気づいたか! バカが!」
「くっ!」
(呼び出された時から薄々感じていたが……まさか、この神聖な場所で茶番をするとは!)
茶番や噓偽りが一切許されない謁見の間で、ルベルはこの呼び出しはやはり自分を陥れるものであって、今までのやり取りは全てノルベルトが作った茶番だと思い知らされた。
苦々しい顔をするルベルを見て、愉悦の笑みを浮かべたノルベルトが楽しそうに口を開く。
「本当は貴様が素直に落とし前をつけてもらえれば良かったのだが……まぁ、これも想定通りだな」
「ノルベルト――!!」
(貴様だけは絶対に許さない!)
カトレアの噂がガセであると証明するために、レクシャ達に協力を仰いで証拠を掴み、茶番だと薄々気づきつつもわざわざこの場に足を運んで公の場で証明した。
そこに至るまでの時間と労力、何よりカトレアとレクシャ達の想いが、全てノルベルトの下らない茶番の一部として使われ、普段は滅多に怒らないルベルが殺気を放ちながら激高する。
すると、頬杖を止めたノルベルトが、徐に手を広げると黒い魔力が現れた。
「黒い魔力……もしかしてお前、闇魔法が使えるのか!?」
ペトロート王国の宮廷魔法師団は、騎士団と同様に魔物の討伐する役目と、この国のありとあらゆる魔法を把握して管理をする役目を担っている。
そのため、宮廷魔法師団の団長であるルベルは、ペトロート王国の貴族達がどんな魔法を使うかをある程度把握しており、ノルベルトが使える魔法は土魔法だけだと思っていた。
だが、それはノルベルトの改竄魔法によって植え付けられたものだった。
ちなみに、今のペトロート王国の貴族達や宮廷魔法師達は皆、ノルベルトの改竄魔法によって『インベック公爵家は代々、土魔法が使える一族である』という認識を植え付けられ、『闇魔法を使える者を排出する家である』という事実は記憶から抹消されている。
驚きのあまり一歩下がったルベルの言葉に、余裕の笑みを浮かべていたノルベルトがいきなり声を荒げる。
「闇魔法などではない! これは、神から与えられた高貴な魔法であるぞ!」
「はっ?」
(『神から与えられた高貴な魔法』って、もしかして神聖魔法か光魔法のことか? だが、神聖魔法は教会よって管理されている魔法で、光魔法は王族しか使えない)
「そもそも、神から与えられた魔法が黒い魔力を伴い魔法なわけあるか!」
魔物を塵すら残さない程の浄化の力を持つ神聖魔法は、『神に愛された者にしか与えられな』と言われているほどの非常に稀な魔法で、持って生まれた人間は平民貴族関係なく全員神殿に保護される。
そして、ペトロート王国で現在、神聖魔法が使えるのは神殿の最高責任者である大神官ただ1人だけである。
もちろん、このことはルベルも魔法を管理する者としてしっかりと把握している。
鼻息を荒くしながら忌々し気にルベルを見つめるノルベルトに、一切目を逸らさないルベルは、いつでも魔法を撃てるように静かに魔力を練る。
2人の間に一瞬だけ沈黙が流れた時、ニヤリと嗤ったノルベルトが天井に向かって黒い魔力を放つ。
すると、金色一色に染められた下品な天井に巨大な漆黒の魔法陣が現れた。
「さて、建国祭の準備運動として少々付き合ってもらうぞ」
「貴様、一体何を言って……」
仕事で何度か見たことある黒い魔法陣に、嫌な胸騒ぎを感じたルベルが後ろ手で魔法陣を展開したその時、笑みを深めたノルベルトが魔法陣に向かって唱えた。
「神と等しい力を持つ我が命じる! 我に仇名す者をせん滅せよ! 《フォルシフィケーション》!」
闇魔法を詠唱にしては非常に仰々しい詠唱をノルベルトが口にした瞬間、闇を纏った漆黒の魔法陣から黒い雫が無数に現れた。
「なっ!」
(なんだ、あの魔法は! 今まで見たことないぞ!)
『改竄魔法』という魔法の存在をノルベルトによって記憶から消されている今、ルベルは初めて見る魔法に狼狽える。
その隙に、魔法陣から出てきた黒い雫は、そのまま腰巾着の貴族達めがけて直撃。
すると、下卑た笑みを浮かべた貴族達の目からハイライトが消え、せっせと練っていた魔力で魔法陣を描くと、それをルベルに向けた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
というわけで、ノルベルトが謁見の間で改竄魔法を使っちゃいます!
いや~、王がいないとはいえ、神聖な場所で闇魔法を使うなんてヤバい奴ですね(笑)
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