第377話 答え合わせ④
「では、ここで噂が全くのガセであるという証拠を映像で……」
「ちょっと待て!」
カトレアの噂が全くのガセであることを証明しようと、ルベルが持っていた魔道具に魔力を流そうとした瞬間、冷や汗を搔いたノルベルトが慌てて玉座から立ち上がる。
「どうした?」
「い、いや、その……あれだ! この聖なる謁見の間で、凄惨な光景を貴族達に見せて良いと思っているのか?」
「はぁ?」
(何を言っているお前は)
この時、ノルベルトは『娘が遊び半分で魅了魔法を使い、天才魔法師を操って平民を殺した』という事実を貴族達に知られることを恐れていた。
というのも、ダリアが魔物討伐に出たことを知ったのは、宮廷魔法師団に潜り込ませている部下から『天才魔法師が平民を魔法で撃った』という報告を聞き、それを噂として流した後だったからだ。
『宮廷魔法師団の失態を噂として流せば、ルベルを団長の座から引きずり下ろし、カトレアをお飾り団長として擁立すれば、宮廷魔法師団を手中に収めることが出来る!』
前々から宮廷魔法師団を手に入れたかったノルベルトにとって、この失態はまたとない機会だった。
ゆえに、貴族達を使って噂を流したのだが……これが、娘のよって引き起こされたとなれば、宮廷魔法師団を手に入れるどころか、宰相としての地位も危うくなる。
(大方『噂の元凶が娘だとバレたら、宰相としての地位が!』とか思っているのだろうな)
顔を真っ青にしているノルベルトを見て、ニヤニヤと笑みを浮かべたルベルは水晶に視線を戻す。
「見せていいも何も、うちの部下は平民を殺してはいない。だから、貴様の危惧している『凄惨なもの』は映っていないぞ」
「し、しかし……」
(チッ! こうなったら、さっさと映像を出してカトレアの無実を証明するぞ)
駄々を捏ねるノルベルトに、しびれを切らしたルベルが魔道具に魔力を流す。
「それじゃあ早速、映し出すぞ」
「ま、待て……!」
ノルベルトの制止を振り切るように、ルベルが魔力を流した水晶から白い光が放たれて、天井に巨大な真っ白く薄い板が現れ、そこに2人の人間の姿が映し出された。
それは、カトレアがカミルに魔法を撃つ直前の光景だった。
「おぉ、これが記録保存用の魔道具! 初めて見たぞ!」
「おい! あそこに天才魔法師殿が!」
「それに、反対側には木こりの恰好をした平民がいるぞ!」
初めて見る魔道具に腰巾着達が感動していると、画面の中からカトレアとカミルの声が聞こえてきた。
『では、失礼します』
『ちょっと、待ちなさい!』
カトレアの言葉を無視してその場を後にするカミルに、腰巾着達が一斉に不快な表情をした。
「全く、愚民のくせに礼儀すらなっていないのか!」
「当たり前ではありませんか。我々貴族とは違い、愚民は家畜と同等なのですから」
「そうでしたな」
「「「「「ハハハハハハハハッ!!」」」」」
「…………」
(あぁ、胸糞悪い。早くこの場から出て行きたい)
貴族達の下品な笑い声にルベルが嫌そうに眉を顰めていると、視界の端に安堵した表情で映像を見ているノルベルトが映った。
どうやら、娘が映っていなくて一安心したようだ。
その時、カトレアがカミルに向かって魔法陣を展開する姿が映し出された。
『《ファイヤーボール》』
カトレアがカミルに向かって魔法を放った瞬間、腰巾着達から歓声が沸いた。
「本当に、天才魔法師殿が魔法を撃った!」
「よし、そのまま下民を亡き者にしろ!」
「……チッ!」
(あぁ、もう! こいつら全員を魔物の中に放り込んでやりたい!)
映像の中のカトレアを貴族達が嬉々として見ている様に、ルベルが小さく舌打ちをした時、カトレアが放った火球が突然消え、無傷のカミルがカトレアの方を振り返った。
「嘘だろ!? 本当に、あの愚民が天才魔法師殿の魔法を避けた!」
「あぁ、それも無傷で」
「な、なんと化物じみたことをしているのだ、あの愚民は!」
「…………」
(本当はここで、誤発射したカトレアの魔法は平民の命を脅かしたとして糾弾され、誤発射した魔法を避けた平民の凄さを称えるべきだろう。だが……)
「いつからだろうな。身分だけで人の尊厳はおろか、命すらも軽んじられるようになったのは」
画面に映るカミルの涼しそうな顔を見て、悔しそうに顔を歪める腰巾着たち。
そんな彼らの醜い姿を目の当たりにし、悲しそうに呟いたルベルは、魔道具から放たれた光を収めるとノルベルトに視線を移した。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
という訳で、映像という証拠を使って、噂が半分ガセであることを完全証明!
ノルベルトは保身を考えていたみたいですけど……今回はあくまで『天才魔法師が平民を殺した』という噂がガセであるという証明をしただけ。
『実は宰相家令嬢が噂の魅了魔法で操っていたせいで天才魔法師が魔法で平民を撃ちました』というのは、また別の話なのです。
まぁ、どこかでバラすのかもしれませんが(笑)
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