第39話 グレアの指示
「メスト、今からシトリンと一緒にリアスタ村へ挨拶に行ってくれないでしょうか?」
「えっ?」
それは、木こりが村の異変に気付く少し前。
フェビルから訓練を命じられた騎士達は、訓練の一環として魔物が出ないが全く整備されていないが森の中を馬で駆けていた。
(『この道を使えば、1時間かかる道のりが30分に短縮出来る上に準備運動には丁度良い!』と団長は得意げに仰っていましたが、訓練を怠っている騎士達にとってこの獣道は……)
日夜魔物と戦っていた辺境の騎士達にとって、駐屯地までの道のりは確かに準備運動でしかなかった。
だが、ぬるま湯のような訓練をしていた王都勤めの騎士達にとっては、獣道を進むだけでも過酷なものだった。
(全く、これで騎士を名乗っているとは……先が思いやられますね)
森を抜けて駐屯地に着いてすぐ、その場に倒れ込んだ騎士達を見て、グレアは思わず溜息を零す。
そして、涼しい顔でシトリンと話しているメストに村に行くように指示を出した。
「どうして、俺なのですか?」
(いつもなら少しだけ休憩してから訓練を始めるのに……それに、村への挨拶なら副団長が行けばいいのではないだろうか?)
僅かに眉を潜ませながら小首を傾げるメストに、小さく溜息をついたグレアは倒れ込んでいる騎士達に目を向ける。
「今、動けるのはあなた方しかいないからです。見てください、王都勤めの騎士達は全員、準備運動だけで疲労困憊になっているではありませんか」
「確かに、おっしゃるとおりですね」
「それに……」
メストに視線を戻したグレアの顔が急に険しいものになった。
「かの村には、早急に挨拶と共に物資提供を断る旨を改める伝えるべきです。一応、村には来訪を知らせた手紙に物資提供を断る文言を入れましたが……それを彼らが安易に信じるとは思えません」
(これまで何度も騎士達に物資提供……いや、強奪をされている村人達が、たかが手紙一枚で信じてくれないでしょう)
『手紙の内容を全く信じてくれない村達が今頃、騎士達への物資提供の準備をしている』と踏んだグレアは思わず溜息を漏らす。
「全く、『平民から一切信用されていない騎士』なんてとんだ笑えない冗談ですね」
「グレア副団長?」
(まぁ、現状を嘆いたところで状況が一変わけではありませんが)
愚行を犯した王都勤めの騎士達を一瞥し、再び溜息をついたグレアはメストに向き合う。
「というわけで、今動けるあなた方が村に赴いて挨拶と再度の物資提供の断りを入れて欲しいんです。本当は副団長である私……いえ、本来ならばこの場にいるはずの団長自らが直接行くべきなんでしょう」
「そういえば、会議の際、『第一陣は俺が率いる!』って自信満々に仰っていましたけど、どうして副団長が率いているのですか?」
不思議そうに首を傾げるシトリンに、グレアは心底呆れたような顔で口を開いた。
「実はあの後、宰相閣下から『第一陣を近衛騎士団団長ではなく副団長が率いるのならば、王命として訓練を承認します』と言ってきたんです」
「つまり、宰相閣下から横槍が入ったために副団長が率いることになったと?」
「そういうことになりますね」
リースタの件で悔しさを滲ませたフェビルと、隣で酷く疲れた顔をしたグレアを思い出し、メストとシトリンは揃って溜息をつく。
「それに先程、この駐屯地に常駐している騎士達の怠慢が発覚しましたので、訓練前にここに常駐している騎士達にも特別訓練に参加してもらおうと思いまして」
「はっ、はぁ……」
(この人、いつもは冷静に物事を判断するけど、怒った時は団長ですら止められないんだよな)
だらしない態度で王都から来た騎士達を出迎えた駐屯地の常駐騎士達に、涼しい顔をいつつも鋭い眼光で睨みつけていたグレアに、メストとシトリンは思わず顔を引きつらせる。
そんな2人にグレアは改めて指示を出す。
「私も後日にはなりますが必ず村には挨拶に行きます。ですので、2人ともよろしく頼みます」
「「ハッ!!」」
(物資を用意していただいた村人には大変申し訳ありませんが、今回の目的は騎士達の根性を叩き直すことです。それに、こういう悪しき慣習は早々に断ち切らないといけませんから)
「今回の来訪で、村人が抱く騎士に対する悪印象を少しでも払拭出来れば良いのですが」
静かに拳を握ったグレアは、綺麗に敬礼をしてその場を後にした2人の部下に託した。
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