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第37話 平民と結界魔法

「ところで、団長」

「何だ?」



 顔を上げたフェビルに、グレアが地図で村の場所を指し示す。



「地図の中に『騎士が常駐している場所』がどこにも記載されていませんが……村人達は、どのようにして魔物から村を守っているのでしょうか?」



 グレアが指摘した村には、騎士が常駐している場所はどこにも記載されていなかった。



「確かに、あの村には常駐している騎士がいない」

「やはり、そうでしたか」



(だとしたら、どうやって魔物達を退けているのでしょうか?)



 難しい顔をしたグレアが、続けざまに質問を投げかける。



「いくら魔物があまり出没しないとはいえ、駐屯地から村まで馬で飛ばしても10分程かかる村に万が一にでも出没した場合、騎士が来る前に村そのものが全滅するのでは?」



 鋭い目つきで疑問を投げかけたグレアに、書類から手を離しフェビルが、背もたれに大柄の体を預けると丸太のような大きさの両腕を組んだ。



「そうだな。お前の見立てに間違いはない。だが……」



 眉を顰めたフェビルは、難しい顔をするグレアに質問の答えを返す。



「あの村にはどうやら、()()()()()()()()()()()らしい」

「結界魔法ですか?」

「あぁ、これもヴィルマン侯爵から聞いた話だから疑うのは無粋なのかもしれないが」



 すると突然、フェビルが上体を前に倒して口元を片手で覆った。

 それを見たグレアは、同じように上体を倒して耳を寄せた。



「何でも、村の()()()張ったものらしく、そのお陰で村は魔物の脅威に曝されることは無いようだ」



 声を潜ませたフェビルの言葉に、思わず目を丸くしたグレアは上体を起こすと姿勢を正した。



「にわかに信じがたい話ですね。ですが、それが本当だとすれば、騎士のいない村が今でも存続しているのにも納得出来ます」



(でも、本当に結界魔法が張られているのでしょうか?)


 フェビルの言葉に納得する反面、グレアはどこか信じられなかった。


 今まで、リアスタ村のことを知らなかったグレアは、辺境近くの村に非属性魔法で分類されている結界魔法が使える人物がいるという情報を耳にしたことが無かった。

 そして、村の規模からして、村に希少な魔法が内包されている魔道具を購入して維持できるお金があるとは思えなかった。

 故に、初級魔法一回分の魔力しか持っていない平民しかいない村が、中級魔法程度の魔力が必要になる結界魔法を張ることも維持することも出来るとは俄かに信じ難かった。


 だが、それが間違いであったことは後々知ることとなる。


 その後、ヴィルマン侯爵の助力で国王から訓練の許可を得たフェビルは、グレアと共に訓練の日程や内容について本格的に詰め始める。

 だが、日程調整や訓練内容の策定など細かい雑務は、肉体派のフェビルより頭脳派のグレアの方が得意だったので、訓練日程や内容は全てグレアが決めて、それを見たフェビルが承認した。





「……というわけだ。来週から、お前たちには辺境近くにある駐屯地で特別訓練をしてもらう。日程は30日間。各自、長期滞在に備えておくように!」

「「「「「はっ!」」」」



 騎士団本部内にある大きな会議室で、フェビルはグレアが組み上げてくれた訓練日程を各隊の隊長・副隊長クラスの騎士達に伝えた。


(第一騎士団との日程調整にはさすがに骨が折れましたが……まぁ、何でも大雑把に決めてしまう団長が、後先考えずに進められるよりかは遥かにマシですね)


 特別訓練の全日程を構築し、目の下に酷い隈を作ったグレアは、真剣な表情で団長の話を聞いている騎士達を見て、静かに安堵の溜息をつく。

 すると、特別訓練の説明を終えたフェビルが壇上から降りた。



「よし。それじゃあ、解散!」



 満足そうな笑みを浮かべながら、フェビルはすぐ後ろに控えていたグレアと共に会議室を後に下。

 その瞬間、直立不動で綺麗な敬礼をした騎士達の緊張が一気に緩んだ。



「うげ~、久しぶりに辺境で訓練かよ」

「俺、魔物討伐があるから辺境で訓練するのだけは嫌だ」

「あと、それにあそこの飯、本当にマズいから尚更」

「それに、食料が尽きたら近くの村に取りに行くのが……」



 王国勤めの騎士達から不平不満が飛び出す中、辺境から来たメストとシトリンは会議で渡された書類に再び目を通す。



「なぁ、今回の訓練の狙いって本当に騎士団全体の士気を上げるだけなのか?」

「まぁ、それもあるだろうけど、一番は……」



 小声で会話していたメストとシトリンは、愚痴が止まらない騎士達に目を向ける。



「やっぱり、彼らの再教育が目的じゃないのかな?」

「だろうな」



(じゃなきゃ、あの副団長が騎士の訓練としては少々物足りないメニューを組むはずがない)


 第二騎士団時代、毎日のように魔物と戦ってきたメストとシトリン。

 そんな彼らにとって、グレアが組んだ今回の訓練内容は、不平不満を言うほど厳しいものではない。

 むしろ、騎士として出来て当然のことしか盛り込まれていないのだ。


(辺境にいた頃の副団長なら、実践を想定した『死と隣り合わせ』の過酷な訓練内容にするはずだ)



「まぁ、辺境から来た僕たちがこの訓練に参加するのは、王国勤めの彼らの騎士と一緒に基礎を向上するってよりも、彼らを手伝ってあげることじゃないかな?」

「そういうことだろう」



 にこやかに毒を吐くシトリンに、僅かに眉間に皺を寄せたメストは小さく溜息をついた。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


今日は3話分更新しますので、今夜もう2話分更新します。お楽しみ!


1/23 加筆修正しました。よろしくお願いいたします。

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