第276話 綺麗すぎて嫌になる
「はいよ、毎度あり!」
「ありがとうございます」
カトレア達が帝国から王国に帰って来て1ヵ月後。
いつものように村人達から頼まれた物を買ったカミルは、村人達から預かったお金を店主に渡した。
すると、カミルの後ろにいたメストがいくつもある大きな木箱のうち2箱を持ち上げた。
「よいしょ! カミル、これを持っていけばいいのか?」
「あっ、はい。そちらを……って」
爽やかな笑みで軽々と木箱を持ち上げるメストを見て、珍しく慌てた様子のカミルがすぐさま駆け寄った。
「大丈夫ですか? ご無理をなさらなくても、こちらに馬車を回しますので」
「大丈夫。これでも、毎日鍛錬している。これくらい、容易いものだ!」
「そっ、そうですか……」
(とは言っても、長時間重い物を持たせるとお体に障るから急いで幌馬車を回さないと)
一瞬眉を顰めたカミルは、表情を無に戻すと足早に店を後にし、そのままステインが待っている場所に向かう。
そんなカミルの背中を見届けたメストは、幌馬車が来た運搬しやすいように店の邪魔にならない場所に木箱を置く。
すると、大柄な体格をした店主が、残りの木箱を持ってきた。
「お忙しいところありがとうございます!」
「いや、良いんだよ! 木こりの兄ちゃんのお陰で、こちらも良い思いをさせてもらっているから!」
白い歯を見せながら豪快に笑う店主は、大きく背を伸ばすと店の中を見回した。
「この店は、平民ご用達の店なのはあんたも知っているよな?」
「はい。初めてこの店を訪れた際、カミルから直接聞きました」
「そうかい。木こりの兄ちゃん、あんたのことを随分信頼しているんだな」
「そう、だと良いのですが……」
照れくさそうに笑うメストを見て、店主は少しだけ笑みを潜めると王都の街並みに目を移す。
「この王都は、国王陛下のお膝元とあって、多くの貴族達が住んでいる。当然、この街……『城下街』と呼ばれているこの街にも、多くの貴族達が買い物しに来る。まぁ、お貴族様達の間では、この街は『商業街』って呼ばれているらしいな」
「えぇ、私もそのように聞いたことがあります」
ペトロート王国の王都は、王城を中心とした大きな円の形で囲まれている。
その王城を取り囲むように出来た街が、貴族しか住むこと許されていない『貴族街』で、貴族の屋敷が立ち並んでいるだけでなく、貴族向けの高級店が軒並み構えている。
そして、その街を取り囲むように作られた街が『城下街』。別名『商業街』。
『王都』という都市の大半を占めるこの街には、国から住むことを許されている平民……主に、商人や職人が店を構えて暮らしており、この街でしか手に入らない物や美味しい料理を求め、国内外から多くの人達が訪れている。
もちろん、この街にも貴族向けの店が並んでおり、その店に行きたいがために貴族街からわざわざこの街に来る貴族達がいる。
ちなみに、商業ギルドや冒険者ギルドなどは城下街にある。
「俺もこの街で生まれて何年と経つが……ここ最近、この街がとても寂しく思う時があるんだ」
「えっ?」
首を傾げたメストに、寂しそうな笑みを浮かべた店主は王都の街並みに視線を戻す。
「随分前は、この街にも商人や職人以外の平民も住んでいた。そして、今以上にこの街には活気に満ち溢れていた。それこそ、平民も貴族も関係なく、皆が己の使命を全うしようと互いに手を取って、皆が明るい顔でこの街で生きていた。だが……」
綺麗な街並みから視線を外した店主は、店で売っている物を手に取る。
「いつからだろうな。この街に商人や職人以外の平民が住むことを許されなくなったのは」
「…………」
寂しそうな顔で話す店主の横顔に、メストは店先から見える王都の綺麗な街並みに目を移す。
(俺の目には、今でも王都は活気に満ち溢れているように見える。だけど、この店主にはとても寂しいものに見えるのだろう)
「叶うことなら、もう一度あの活気に満ち溢れた街に……平民も貴族も関係なく、皆が笑って歩いている王都が戻って欲しい」
「店主殿」
今の彼らは知らない。
王都が変わってしまったのは、全てノルベルトの改竄魔法によって変わったからであることを。
だから、今のメストには店主の気持ちは分からない。
そして、店主もどうして王都が変わってしまったのか分からない。
それでも、店主は変わってしまった王都の街並みを見て本音を吐露する。
「今の王都は……綺麗すぎて嫌になる」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
王都の街の仕組みが出てきましたね!
3つの区画が王都の都を占める面積をとしては、王城の敷地が2割、貴族街が3割、商業街が5割になっています。
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)