第272話 騎士の帰還(後編)
すみません、一話分飛ばしていました!
「あなた様だって、家族や友人、尊敬している先輩や上司を敵に回すと分かっていながら、今までレクシャ様のために動いていたではありませんか?」
「っ!?……そう、だな」
ラピスから静かに問い質され、思わず目を見開いたフェビルは、悔しそうな顔をすると視線を落とした。
「確かに、俺も大切だと思っている奴ら……いや、家族はあの方のお陰で帝国に逃がしているから違うか」
「帝国にご家族を逃がしているのですか?」
「あぁ、あの方はノルベルトの愚かな策に気づいていた。だからあの方は、奴が行動を起こす1週間前に、実家に帰省していた俺に取引を持ち込んだ」
「取引ですか?」
「そうだ」
そう言って、フェビルは自分のつけている銀色の腕輪をラピスに見せた。
「『家族を逃がす代わりに、内通者として騎士団の動きを監視し、逐一報告して欲しい』と」
「っ!?」
(どうして、どうしてレクシャ様は騎士団ではなくフェビル団長個人にそんな取引をしたんだ!!)
顔を俯かせたラピスは怒りを抑えるように拳を握る。
「奴は狡猾なくせに爪が甘い。それに対し、あの方は頭が回って用心深い。だから、騎士団の中で親交の深い俺を内通者として騎士団の見張りをさせたかった」
「そんな……」
(それじゃあフェビル団長は、最初から全てを知っていて……)
脳裏に蘇る今までのフェビルの言動。
その言葉と行動が、ラピスの怒りを頂点に立たせた。
「まぁ、あの方の恩義があったから俺は取引に応じた。とは言っても、近衛騎士団長に抜擢されたのは予想外だったが……」
「ならばどうして」
ゆっくりと視線を上げたラピスは、上司であるフェビルの胸倉を掴んだ。
「どうして団長は、俺たちを敵に回したのですか!!」
(俺たちだって騎士団の一員なのだから、団長の指示があればあいつを欺きます!!)
信頼していた上司から裏切られた気持ちになったラピスは、掴んだ手に力を入れる。
そんな部下の顔を見たフェビルは、椅子から立ち上がると胸倉を掴み返して叫んだ。
「そんなの、国民全員を奴の傀儡にさせたくなかったからに決まっているだろうが!!」
「っ!?」
(巻き込みたくなかった?)
啞然とするラピスに向かって、フェビルは堰を切ったかのように思いをぶちまける。
「本当は、お前たちにも銀色の腕輪を付けさせてやりたかった。だが、そんなことをすれば奴にあの方の存在……殺したはずの『死神』の存在が知られてしまう! そうなれば、奴は支配した魔法陣を使って国民全員を自分の傀儡にし、あの方や帝国民を皆殺しに行くだろう! それは、俺やあの方が一番望んでいないことだ!」
(部下を奴の支配下に置かれるのはたまらなく嫌だった。だが、国を守るため騎士として、国民全員を奴の傀儡にさせることはどうしても避けたかった)
「……だから、今まで黙っていたのですか?」
「あぁ、そうだ。それが、お前たちや国民全員を守ることにも繋がっていると判断したから」
「っ!」
(フェビル団長は、そこまで考えていたのか。だとしたら……)
ゆっくり顔を上げたラピスは、小さく息を吐くと真剣な目でフェビルを見た。
「もし、万が一にでも俺たちが奴の傀儡に落ちてしまったら……」
「その時は、俺の強化魔法を使ってお前たち全員を無力化してやる」
(それが、部下を人質に取られた俺に出来るせめてもの償いだから)
黒い瞳に宿した騎士団長としての揺るぎない覚悟。
その強い決意を目の当たりにしたラピスは、大きく目を見開くとフッと笑みを零した。
「さすがにそれだけは勘弁ですね。団長の本気の剣戟、食らいたくありませんから」
「ヘッ、そうかよ。でもまぁ……」
鼻で笑ったフェビルは、椅子から立ち上がるとラピスの横に立った。
「お前が全てを敵にする覚悟をしたというのなら、俺はレクシャ様の協力者としてお前を歓迎する」
そう言うと、フェビルはラピスに手を差し出す。
「これからよろしく、ラピス・フォルダン伯爵令息殿」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。フェビル・エドマンド侯爵様」
「ハハッ、そこまで思い出していたか」
「当然です」
嬉しそうに笑ったフェビルは、優しく微笑むラピスと握手を交わした。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
一話分飛ばしていました! 本当にすみませんでした!
ようやくラピスとフェビルが合流!
フェビルの本名も明らかになりましたね!
これからどうなるのか!?
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)