第271話 騎士の帰還(中編)
「……なるほど、帝国の天才魔法師が改竄魔法を解いてくれたお陰で記憶を取り戻し、フリージア嬢を助けるためにレクシャ様に協力することにしたということか?」
「その通りです」
ラピスから帝国でのことを聞いたフェビルは、大きく溜息をつくと頭を抱えるように項垂れた。
(まさか、マーザス殿が2人の改竄魔法を解いたとは……だが、あの方ならやってしまいそうだな)
ラピスに付けられていた銀色の腕輪を思い出し、再び溜息をついたフェビルはそっと顔を上げる。
「それで、今回の目的であった杖の方はどうした?」
「カトレアが直接、持ち主であり自らの師匠であるロスペル様のところに届けに行きました」
「……そうか」
(そこまで思い出してしまったのか。まぁ、だからこそあの方……レクシャ様に接触して、その腕輪をつけているのだろうが)
袖の下に隠された腕輪を一瞥したフェビルは、ゆっくりと視線をラピスに戻す。
「ところでお前、本当にそれでいいのか?」
「『それで良いのか?』と言いますと?」
「その腕輪を付けているということは、お前が大切にしている家族や友人、尊敬している先輩や上司を敵に回してでもレクシャ様のために動くということなんだぞ?」
(それでも良いのか? 大切なものを犠牲にしてまで、お前はカトレア嬢と共にフリージア嬢を助けたいのか?)
両手を強く握り、真剣な表情でラピスに覚悟を問うフェビルに、真面目な表情を一切崩さなかったラピスは小さく頷く。
「構いません。私の忠誠は王国に捧げました。ですが……」
腰に携えていた剣を鞘ごと引き抜いたラピスは、両手で剣を横に持つとそのまま片膝をついて首を垂れる。
それは、騎士が主に対して忠誠を誓う時に行われる所作だった。
「私の剣と心はカトレアに捧げています。何より……」
剣を持った手に力を入れたラピスが顔を上げる。
「婚約者の親友であり、我が悪友である彼女が3年もの間、この王都で孤軍奮闘に民を守っているのです。それを助けたいと思うのは、友として当然のことでは無いでしょうか?」
フェビルを射貫くような目で見るラピスのくすんだ黄色の瞳には、どのようなことが起きても決して揺るがない覚悟が宿っていた。
そんな彼の脳裏に懐かしい記憶が蘇る。
『ラピス様、その程度でカトレアを守ろうなんて100年早いんじゃないかしら?』
『うるせえ、そんなことは俺に勝ってから言え』
『何ですって!?』
貴族達が集う社交場に出れば、貴族令嬢らしい気品溢れたお淑やかな所作で、宰相家令嬢に恥じない振る舞いをする銀髪の少女。
だが、木剣を握れば誰だろうと勇猛果敢に立ち向かうお転婆娘。
そんな彼女から何かと勝負を吹っ掛けられていたラピスは、呆れつつも彼女の洗練された剣技に負けないように本気で打ち合っていた。
(貴族令息もあっという間に打ち負かしてしまう男勝りな悪友。そんな彼女に『助けに来た』と言えば、『今更?』と呆れたように溜息をつかれそうだ。けど……)
本気なんだな?」
「もちろんです。それに……」
小さく笑みを零したラピスが、フェビルを労うように静かに問い質す。
「あなた様だって、家族や友人、尊敬している先輩や上司を敵に回すと分かっていながら、今までレクシャ様のために動いていたではありませんか?」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます。
最後のラピスからの問いに、フェビルはどう答えるのか!?
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)
4/1 加筆修正しました。