第267話 戦いのあと(後編)
「それは俺も思っていた」
「ルベル団長!」
メストの質問に共感したルベルがザールの前に立つ。
「俺も魔物討伐の時に少ししか見ていないが、あんたが使っていた回避技や魔力は、その『カミル』という平民と同じものだった」
黙ったままのザールに、ルベルは静かに目を細める。
魔物との戦いの中で、ルベルは遠くでジルを守りながら魔物を屠っていたザールの無駄の無い洗練された回避技と、銀色の大剣に纏わせた透明な魔力に思わず目を見開いた。
(平民上がりの騎士とは思えない無駄の無い動きでの回避技。そして、あらゆる魔法を打ち消す透明な魔力。どう考えても、こいつとカミルという平民に接点があるはずだ)
メストとルベルとシトリンからの探るような視線、そして、少し離れた場所で不安そうな目で見つめるフェビルの視線を受けたザールは、兜の下でそっと目を閉じる。
『良いか、絶対に正体を明かしてはならないぞ』
脳裏に蘇った父親の声。その声はとても切なく、ザールの胸をいつだって締め付けていた。
(分かっているよ、親父)
父親の声に小さく下唇を噛んだザールは、表情を無に戻すと目を開いてメストとルベルに向かって口を開いた。
「それを教えてどうするのですか?」
「えっ?」
眉を顰めたルベルに、ザールは淡々と話す。
「あなた方にそれを教えたところで、あなた方はそれを習得なさるのですか?」
「そっ、それは……」
(回避技が会得できたとしても、魔力の方は無理だろうな。だって、この魔力は……)
鎧に覆われた手を一瞥したザールは、視線を目の前の2人に戻す。
すると、小さく溜息をついたジルがにこやかな笑みを浮かべるとザールの前に出た。
「あの、これ以上、私の護衛騎士を虐めるのは止めていただけませんか?」
「別に虐めていたなど……」
「そうですか。でしたら、この話は終わりで良いですよね?」
紳士的な笑みで圧をかけるジルに、小さく肩を震わせたルベルは深く溜息をつくと面倒くさそうに頭を掻いた。
「あぁ、そうだな。すまなかったな、ザールとやら」
「いえ」
淡々と答えたザールに、再び深く溜息をついたルベルはフェビル達を見やる。
「よし、ここでの調査は終わりだしさっさと王都に帰るぞ」
「「「ハッ!!!」」」
騎士達から敬礼されたルベルは、腰に下げていたマジックバックから転移魔法が付与された魔道具を取り出すと魔力を注ぎ込む。
すると、メストがザールの方に向き合った。
「ザール、最後に聞いても良いか?」
「私に答えられるものであれば」
メストとザールの間に一触即発の空気が流れる中、厳しい表情をしたメストが問い質す。
「カミルという平民を知っているか?」
「……えっ?」
一瞬間が開いたザールの答えに、眉を顰めたメストが問い詰める。
「お前と同じ透明な魔力を操り、お前と同じように洗練された回避技で魔物を倒し、馬鹿騎士達から平民を守る木こりのことだ!」
「さぁ、侯爵領の護衛騎士をしている私には王都のことなどさっぱり分かりませんので」
「そうか、それならなぜ先程取り乱した?」
「『取り乱した』と言いますと?」
静かに拳を握ったザールに対し、メストは先程のザールの態度について言及する。
「お前は先程、カミルがリアスタ村にいると言った瞬間、騎士とは思えない程にとても取り乱していた」
「それは、何でもないと……」
「『何でもない』と言い切れるか?」
「っ!」
(こいつ、どこまで知って……いや、フェビル様の態度を見る限り、こいつは今もあの野郎の魔法の影響化にあるはずだ)
人知れず冷汗を掻いているフェビルを見たザールは、食って掛かってきているメストに視線を戻す。
「ザール、もう一度聞く。カミルのことを知っているか?」
「…………」
(ここで本当のことが言えたら、どれだけ楽になれるのだろう)
『リュシアン兄さん、父さんから『帝国から帰ってきたら動く』と』
王城にいる弟から届いた手紙を思い出し、真剣な表情で聞いてきたメストに、一瞬だけ笑みを零したザールは無表情になると淡々とした口調で答えた。
「さぁ、知りませんね」
「……そうか。問い詰めるような真似をしてすまなかった」
(ごめんな、メスト。だが、お前を巻き込むわけにはいかないんだ)
「それじゃあ、行くぞ。《テレポート》!」
残念そうに俯くメストの姿を見届けたザールが苦笑していると、隣にいたジルがザールに声をかけた。
「それじゃあ、お使いも済んだことだし、僕たちも目的を果たしに行こうか」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
透明な魔力に、隙を与えない回避技、そして王城で働く弟……ザールの正体が徐々に分かってきたのではないでしょうか!
また、前話の最後のメストのセリフを少し変えました。
(初対面とはいえ、家の使用人に対して敬語はどうなのかなと思いまして)
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