第266話 戦いのあと(中編)
「そうだな。厳格な父上のことだ。この事実を知った時、父上は俺とダリアの婚約を解消させるかもしれない」
「そうですね」
(宰相家令嬢が天才魔法師を闇魔法で操って平民を襲った。この事実だけで、父上は家を守るために動くはずだ)
「幼い頃は、あんな子じゃなかった」
「メスト……」
「ダリアは……幼い頃の彼女は、お人好しのお転婆でありながらも、貴族令嬢として既に大人顔負けの洗練された立ち回りを身につけていた。そのくせ、毎日木剣を振っていて、婚約者である俺に模擬戦で挑んできた」
(そして、俺に勝ったら心底喜んで、負けたら心底悔しがるような素直な子……あれっ?)
婚約者が幼い時の頃を思い出したメストは、不意に記憶の中の婚約者と今の婚約者に違和感を覚える。
(でも確か、ダリアは本よりも宝石が大好きで、随分前に『木剣なんて物騒なもの持ったことが無いです!』と言っていた。だとしたら……)
「俺は一体、誰が好きになったんだ?」
ゆっくり顔を上げた瞬間、メストの頭の中に可愛らしい少女の声が聞こえた。
『メスト様!!』
「っ!?」
脳裏に浮かんだ木剣を構えた少女に、胸を熱くしたメストは何かを思い出す。
(そうだ。俺はこの銀髪で淡い緑色の瞳の可愛い顔立ちをした少女の勝気で凛とした姿に一目惚れをして……)
「うっ!」
「メスト!!」
突然、激しい頭痛に襲われたメストに、傍にいたシトリンが懐に入れていた回復ポーションを取り出して渡す。
「メスト、これ飲んで」
「あっ、あぁ……」
シトリンからポーションを受け取ったメストは、蓋を開けるとすぐさま中身を飲み干す。
すると、あっという間に頭痛が引いた。
「ハァ、ハァ、ハァ……ありがとう、シトリン。助かった」
「良いよ。それよりも大丈夫? 前もあったよね?」
「あぁ、そうだな。誰かを思い出すと急に頭痛が襲うんだ」
「「「っ!?」」」
フラフラになりながらも出たメストの言葉に、フェビルとザールの目が大きく見開くとすぐさまアイコンタクトを交わす。
そして、フェビルは頭痛でフラフラになっているメストに近づいた。
「なぁ、メスト」
「何で、しょう?」
「その……前に頭痛が襲ったのはいつだ?」
(少なくとも第二騎士団にいた頃ではない気がするが……)
神妙な面持ちで聞いてきたフェビルに、メストは思い出すように首を傾げると口を開いた。
「確か、カミルと初めて手合わせした時だったと思います」
「カミル? 誰だ、それ?」
首を傾げるルベルに、メストはカミルについて簡単に話す。
「孤児院育ちで木こりをしている平民なのですが、平民には珍しく魔力やレイピアを操ることが出来るんです」
「それって、この前お前と一緒に魔物討伐に来ていた平民のことか?」
「そうです」
メストの話を聞いて、フェビルとザールを一瞥したジルは、小さく溜息をつくとメストに視線を戻す。
「しかし、そんな平民が王都にいるなんて知りませんでした」
(何せ、こちらは王都から少し離れた領地にいるのだから)
すると、ジルの言葉に反応したメストが小さく首を横に振った。
「いや、彼は王都ではなくリアスタ村に住んでいるんだ」
「リアスタ村だと!?」
(その村って、確か引退した執事がいる……)
突然大声を出したザールに、フェビル達が目を見開く中、呆れたよう溜息をついたジルが、後ろにいるザールに向き合う。
「ザール、どうした? 急に大声を出して」
「あっ……いえ、何でもありません。お騒がせしてしまい、申し訳ございませんでした」
不用意に注目を集めてしまったザールは恭しく頭を下げる。
そんな彼に小さく溜息をついたジルは、視線をルベルとフェビルに向けた。
「ちなみに、フェビル団長はその方をご存じで?」
「はい、メストとシトリンからそのような平民がいると聞いていましたから」
「そうですか」
(まさか、ここで家族の情報が掴めるとは、さすがのリュシアンも思わなかったはず)
ジルが後ろで愕然としている護衛騎士を一瞥すると、ポーションのお陰で体調が戻ったメストがザールに近づいた。
「ザールと言ったな」
「はい、メスト様」
「……1つ聞いても良いか?」
「何でしょう?」
淡々と答えるザールに、既視感を覚えたメストは小さく息を吐くと口を開いた。
「どうして、カミルと同じ魔力、そして同じ回避技が使えるんだ?」
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