第265話 戦いのあと(前編)
「《ウインドカッター》!」
「《ウインドショット》!」
「「ハアッ!!」」
「グアガガガガッ!!」
ルベルとシトリンの風属性の中級魔法と、フェビルとメストの息の合った剣戟で大型の魔物を屠ると周囲に魔物の気配が一切無くなった。
「ハァァァ、お前たち大丈夫か?」
「えぇ、私も部下の大丈夫です」
「そうか」
(取り敢えず、あのバカ宰相息子の置き土産を片付け、全員無事に王都に帰れそうだな)
剣を鞘に収めた騎士達を見て、盛大な溜息をついたルベルはその場にしゃがみ込む。
すると、部下に後処理を任せたフェビルがルベルのところに来た。
「ルベル団長」
「何だ?」
「今回の件はどうされますか?」
「そうだな……」
シトリンの時魔法で見た光景を思い出し、眉を顰めたルベルが考え込むように顎に手をやると首を傾げる。
「カトレアの言葉が真実だったという証明は出来たから本来の目的は果たせた。だが……」
「いざ、証言の場でこの証拠を出すとすれば話は別になると?」
「そうだな。何せ、証拠に宰相家が関わっている。となると、あのバカ宰相のことだ。『捏造だ!』とか喚き散らして俺の立場を悪くするに違いない」
「そうですね。だとすれば、リアン様が我らに危害を加えたことも……」
「『嘘だ!』と大声で叫んで強引に揉み消すだろうよ」
(だったら、このまま闇の中に葬っても良いのだが……あのバカ宰相のことだ。俺が王都に戻ったら間違いなく呼び出すに違いない)
「さて、今回のことをどう話をすればよいか……」
「ルベル団長にフェビル団長」
王都に戻った後のことを考え、ルベルが頭を抱えていると、少し離れた場所で戦っていたジルとザールが戻ってきた。
「ジル様! 大丈夫でしたか!?」
血相を欠いたフェビルに、苦笑交じりの紳士的な笑みを浮かべたジルが小さく頷いた。
「えぇ、優秀な騎士のお陰で魔物達を倒すことが出来ました」
「おぉ、そうでしたか!」
(さすが、あの方と同じ力を持つ者だな)
ジルの後ろに控えているザールにフェビルが安堵の笑みを零すと、2人を見たジルが笑みを潜めると問い質す。
「ところで、2人は今回のことをどうされるおつもりなのですか?」
「そうですね……」
ゆっくりと顔を上げたルベルと、後処理を終えた2人の部下を見たフェビルは、少し思案を巡らせて口を開く。
「騎士団としては、今回はルベル団長とシトリンの護衛ということで、ここで起きたことは当事者と私の右腕であるグレアだけの秘密とさせていただきます。2人とも、そのつもりだから、今回のことは他言無用だ」
「「ハッ!」」
敬礼をするメストとシトリンを一瞥したジルは、視線をルベルに移した。
「それで、ルベル団長はどうなさるつもりですか?」
「そうですなぁ……」
ゆっくりと立ち上がったルベルは、周囲一帯を見回すと再び盛大な溜息をついて頭を掻いた。
「一先ず、『シトリン君の時魔法でカトレアの証言が真実であるか確認をする』という目的が達成出来たので、それを当事者であるカトレアに報告。後は……陛下に呼び出されたら話すとします」
(今の俺に出来ることはこれくらいだと思うから)
僅かに苦い顔をするルベルに、少しだけ目を伏せたジルは4人に視線を合わせた。
「分かりました。でしたら、こちらは当主に全て報告させていただきます」
「ということは、今回のことはヴィルマン侯爵様から宰相閣下に報告するということでしょうか?」
(監視役であるヴィルマン侯爵様は、今回のことをあのバカ宰相に報告をするはず。だとしたら、ヴィルマン侯爵様もただじゃ済まない気が……)
拳を握ったフェビルに、ジルは首を横に振った。
「さぁ、そこは旦那様次第でしょうが、『王国の剣』であるヴィルマン侯爵家の当主が、今回のことを考え無しに口にするとは到底思えません」
「確かに、そうですね」
(あの方程ではないにしろ、ヴィルマン侯爵様も中々腹の中が見えない人だ。そんな人が、今回のことを洗いざらい話すとは思えない)
「ですが」
小さく溜息をついたジルは、フェビルの後ろにいたメストに視線を向けた。
「今回の件で、メスト様とダリア様の婚約に大きく影響するのではないでしょうか?」
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