特別編 お礼のチョコレートマカロン(後編)
※メスト視点です。
「カミル」
「何ですか?」
いつものようにカミルの美味しい料理を堪能し、片づけを済ませた後、俺はソファーでくつろいでいるカミルの隣に座る。
「これ、カミルにあげる」
「えっ、何ですか急に?」
唐突に紙袋を差し出されたカミルは、警戒するように俺の方を見る。
そんなカミルを見て、急に緊張してきた俺は咄嗟に目を逸らすと空いている手で頬を掻いた。
「こっ、これは、その……お礼だ!」
「お礼ですか?」
首を傾げるカミルに、俺は覚悟を決めると意を決して視線を合わせる。
「あっ、あぁ、毎朝鍛錬に付き合ってくれたり、泊まらせてくれた日には美味しい料理をふるまってくれたり、他にもいろいろあるが……ともかく、これはそのお礼として受け取って欲しい」
「はぁ、どうにも腑に落ちませんが、そういうことでしたらありがたく受け取らせていただきます」
困惑しつつも紙袋を受け取ったカミルを見た瞬間、どっと疲れが押し寄せてきた。
どうしてだ? ただ、カミルに紙袋を渡すだけなのに、どうしてこんなにも緊張して、過酷な訓練をし終えた直後の疲れが押し寄せるんだ?
急に来た緊張と疲労に首を傾げようとした時、紙袋の中身を見たカミルが珍しく息を呑む声が聞こえた。
「あの、これって一体……」
紙袋から取り出したチョコレートのマカロンを見たカミルが言葉を失う。
それを見た瞬間、自然を笑みが零れ、俺はようやく紙袋を渡した本当の理由を口にする。
「前にカミル、お菓子屋の前に陳列されていたチョコレートのマカロンに釘付けになっていただろ?」
「っ!? 見ていたのですか?」
ゆっくりと視線をこちらに向けたカミルに俺は小さく頷く。
「あぁ、あの時のお前、子どもみたいに目をキラキラさせていたから忘れられなくてな」
「すみません、みっともない姿をお見せしてしまい」
余程不本意だったのか、カミルがマカロンを持ったまま肩を落とす。
だが、俺にはその姿がなぜだが『愛おしい』と思ってしまった。
「別にみっともなくはない。むしろ、カミルの新しい一面が見れて俺は嬉しかった」
「本当、ですか?」
恐る恐る視線を上げたカミルに、少しだけ胸が高鳴った俺は笑みを深める。
「あぁ、本当だ。だから、俺はカミルに手作りのマカロンを作ってあげようと思った」
「手作りしたんですか?」
「あぁ、とは言っても、半分はシトリンに手伝ってもらったから全てとは言えないが」
「そう、だったのですね」
俺の言葉に納得したのか、再び視線をマカロンに向けたカミルは、小さく口角を上げると持っていたマカロンを上品に口に運んだ。
その瞬間、カミルの目から透明な雫が1つ流れた。
「カミル!?」
そんなに不味かったのか!? だが、シトリンに手伝ってもらったからそんなはずがないのだが……
不安に駆られた俺は慌てて立ち上がると、ようやく自分が涙を流したことに気づいたのか、カミルがマカロンを持ったまま器用に頬に手をあてる。
「あれっ? どうしてでしょう? こんなに美味しいのに、どうして涙が出てしまうのでしょう?」
「…………」
黒いアイマスク越しから流れる透明な雫達に、不器用に笑ったカミルは、手の中にあったマカロンを食べ終えると、涙を止めようと何度も拭う。
「どうして、どうして涙が止まらないの?」
その不器用な姿に胸が締め付けられた俺は、小さく下唇を噛むとカミルの前に立つとそのままカミルを抱き締めた。
「メストさ……」
「今は、気の済むまで泣けばいい」
「っ!」
物心ついた時から天涯孤独だったカミルは、きっと人の温かさというものにあまり触れて来なかったのだろう。
そう思った俺は、静かに嗚咽を漏らすカミルが落ち着くまで抱きしめながら頭を撫でた。
だが、この時の俺は勘違いをしていた。
カミルが涙を流した理由が、人の温かさでは無かったことに。
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