第260話 最初から
「国家反逆罪? 一体、我々が国家に対して何を反したというのでしょうか?」
(そもそも、俺たちはカトレアの言い分が真実であることか確認しに来ただけ。国家に反逆するような真似をしに来たわけではない)
眉を顰めて至極当然な問いを口にするルベルを見て、鬼の形相になったリアンがルベルを指差して声を荒げる。
「とぼけるな! 貴様らは、我が父上に内緒で国家の秘密に触れようとした!」
「国家の秘密?」
(この鬱蒼とした森の中に国家の秘密があるというのか?)
ますます眉を顰めるルベルの傍で、ジルはザールに小声で話しかける。
「リュシアン、『国家の秘密』って……」
「えぇ、この森の奥にあるアレで間違いないかと」
「やっぱり」
(確かにあれは、今の王国にとっては国家の秘密そのものだね)
森の奥を一瞥したジルが視線をリアンに戻した時、ルベル達を見回したリアンが威風堂々とした態度で口を開いた。
「宰相閣下の許可なしに国家の秘密に触れることは許されざること! よって、父ノルベルト・インベックに代わり、第一王女の婚約者であるこの私リアン・インベックが貴様らに罰を下す!」
「「「っ!?」」」
「ちなみに、このことは父上から了承済みだ!」
「はぁ!?」
(いきなり何を言っているんだ!? 調査に来ただけの俺たちが何をしたというんだ!?)
困惑するルベルに加え、少し離れた場所で話を聞いてたシトリンやメストもリアンの横暴さに言葉を失っていた。
その近くで、ジルとアイコンタクトを交わしたフェビルが一歩前に出た。
「お待ちください、リアン様」
「何だ?」
リアンの意識をこちらに向けたフェビルは、胸に手をあてると恭しく頭を下げた。
「そもそも、あなたのお父上は我々の行動を監視するために、ここにいるヴィルマン侯爵家の者を遣わしたのです。それなのに、何もしていない私たちに対し、いきなり国家反逆罪で処すなんておかしな話ではありませんか?」
(そう。ここにいる執事と護衛騎士は、ヴィルマン侯爵様の命令を受け、主の代わり主があのバカ宰相に下された命を遂行しに来た。それなのに、来て早々いわれもない罪で処そうとするなんて……)
「フン! そんなこと、私が知ったことではない!」
「はっ?」
素の反応で頭を上げたフェビルに、リアンは不機嫌そうな顔で父親から受けた命を口にした。
「私に父上から『この森にいる愚民共を国家反逆罪で全員殺せ』と命じられた。故に、貴様らの言い分なんて最初から聞くつもりなど毛頭ない!」
「そんな……!」
(無茶苦茶すぎる。それじゃあまるで、最初から私たちを消すつもりでわざと泳がせて……まさか!!)
リアンの言葉を聞いて、だんだんと顔を青ざめさせるフェビル。
すると、ジルがフェビルの傍に来て、目の前にいるリアンを見据えた。
「ジル様」
「フェビル団長、あなたも気づいたでしょう? 宰相閣下が、最初からこの場にいる者達全員を纏めて消すつもりでいたことに」
「「「っ!?」」」
絶句する4人に、ジルの顔が険しくなる。
(思えば、最初からおかしかった。あのバカで愚かな貴族が、今までのように圧力で動きを封じるようなことをせず、わざわざ建前の遣いを寄こすだけにし、2人の行動を止めなかったことに)
「やはり、ヴィルマン侯爵の見立ては間違っていなかった。さすが『王国の剣』ということだけはある」
リアンの言葉を聞いた瞬間、ジルは侯爵が予想したノルベルトの思惑が間違っていなかったと確信する。
この秘密裏に動いていた調査は、最初から自分と敵対している奴らを一掃するための茶番でしかなかったことを。
カトレア達の出立した後、フェビルとルベルの怪しい動きを察したノルベルトは、ダリアに魅了魔法を使って探らせるよう命じた。
その後、ダリア報告を受けたノルベルトは、あえて2人の団長に圧力をかけずに彼らを泳がせ、彼らを森に入らせてある程度自由にさせる。
そして、丁度いいタイミングでリアンを森に向かわせ、そこで目の上のたん瘤であるフェビルやルベル、敵対しているヴィルマン侯爵やその息子であるメスト、ジャグロット家の次期当主であるシトリンを纏めて消してもらおうとしたのだ。
唯一の誤算があるとすれば、森に入ったのがヴィルマン侯爵ではなく、執事であるジルと騎士のザールであったこと。
だが、これはノルベルトにとっては好機でしかなかった。
(ノルベルトにとって、僕やリュシアンはルベル団長やフェビル団長以上に消したい人物。だとしたら、ここで正体がバレるわけにはいかないし、死ぬわけにもいかない!)
ザールに視線を送ったジルは、紳士的な笑みを浮かべると執事らしく姿勢を正すと胸に手をあてた。
「では、どうやって我々に罰を与えるというのでしょう?」
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
リアンの横暴さに振り回されるルベル達!
一体どうなる!?
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