第259話 リアン・インベック
「やはり、ここにいたのだな」
「「「「「っ!」」」」」
聞き覚えのある声に反応し、肩を震わせた6人が揃って振り向くと、森の奥から贅の限りを尽くした服に身を包んだ第一王女の婚約者リアンが現れた。
「どうして、あなたがここに……」
「フン! 父上の命令でこんなド田舎の森に来てみれば……まさか、本当に愚民どもがいたとはな!」
困惑するルベルを無視し、鬱蒼した森を見て不機嫌そうに鼻を鳴らしたリアンは、6人に視線を向けると下卑た笑みを浮かべた。
それを見たジルは、僅かに眉を顰めると傍に控えていたザールに近づくと耳元に囁く。
「リュシアン、君はあの男に気づかなかったのか?」
「申し訳ございません、殿下。恐らく、奴が持っている真っ白なローブに気配や魔力を消す魔法が付与されていたと思われ、奴がローブを脱ぐまで存在に気づきませんでした」
「そうか」
(さすがのリュシアンも、気配や魔力を消されては気づけないか)
目の前の騎士が人の気配や魔力に殊更敏感であることを知っていたジルは、リアンが持っているローブに大きく魔法陣が刻まれているのを見つけて納得した。
そして、ザールの傍を離れたジルは、執事らしく紳士的な笑みを浮かべるとリアンの前に立って深々と頭を下げる。
「おやおや、これはこれは、第一王女の婚約者様であらせられるリアン・インベック様ではありませんか」
「フン! 愚民如きが私の名を口にするではない!」
尊大な態度でジルの深々とした挨拶を無下にしたリアンを見て、眉を少しだけ上げたジルは再びザールのもとに近づくと小声で囁く。
「ねぇ、彼大丈夫? 一応、僕の妹の婚約者みたいなんだけど、それにしてはその……あまりにも足りなさすぎない? 大半の貴族なら、執事が身につけている燕尾服を見ただけで、すぐにどこかの有力貴族だと分かるものでしょ?」
(それに一応、次期公爵でもあるのだから、それなりに知識や教養は身につけているはず)
教養がある貴族なら誰でも分かることを口にするジルに、リアンを一瞥したザールが深く溜息をつくと小声で返した。
「ハァ……それは、こうして彼に再会する前から知っていたでしょう? 彼に、貴族ならデビュタントが始まる前に身につけているはずの教養が身についてないことくらい」
「まぁ、そうだね。君程ではないけど、僕も昔から何かと彼から因縁をつけられていたから」
「そう言えばそうでしたね」
(でもまぁ、今では『因縁』なんて生易しい言葉では片づけられなくなったが)
今までのことを思い出したザールが小さく拳を握った瞬間、リアンの視線がジルとザールに向けられた。
「おい貴様ら! さっきから何をコソコソ話している! 不敬罪で今すぐこの私が手を下しても良いのだぞ!」
癇癪を起して怒鳴り散らすリアンに、ジルとザールがほんの少しだけ溜息をつくと、今までの会話を黙って聞いていたフェビルが、突然2人の前に立つとリアンに声をかける。
「ところでリアン様、先程『お父上の命令でこちらに来た』とおっしゃっておりましたが、お父上であらせられる宰相閣下から一体何を命じられたのでしょうか?」
(この場にジル様がいる時点で、彼がこの場に監視役として遣わされたとは考えにくい。だとしたら、ノルベルトは息子にろくでもないことを命じたに違いない)
困惑したままのルベルや少し離れた場所で放心状態のメストと介抱するシトリンを見て、剣の鞘に静かに手をかけたフェビル。
そんな彼を見たリアンは、ニヤリと下卑た笑みを浮かべると6人に向かって大きく手を広げてこの森に来た目的を告げた。
「それはもちろん、貴様らを『国家反逆罪』としてこの私自らが罰を下すからに決まっている!」
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