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第227話 悪魔の取引

「……当然、私はその場で奴の申し出を断りました」

「当たり前だ。そんな狡猾で強欲なバカが宰相になってみろ。あっという間に国が亡びるぞ」

「えぇ、そうですね……」



(そう、そんな奴が宰相にでもなれば、国民はおろか、国そのものが無くなってしまう。それを分かっていたはずなのに、私は……)


 小さく拳を握ったレクシャは、表情を歪ませたまま話を続けた。



「ですが、私が断ることを最初から分かっていた奴は、取引を突きつけたのです」

「『取引』か」

「……はい」



『まぁ、あなたなら断るのは分かっていたので……取引をしましょう』

『はっ?』



(申し出を断った私を見て、楽しそうな笑みを浮かべたノルベルトは、私にとっては酷な条件を出してきた)



「ちなみに、その『取引』というのは?」

「っ……」



 小首を傾げた宰相からの問いに、悔しさと怒りを滲ませたレクシャは静かに俯くと、拳が強く握った。



「っ!?……あっ、あの、レクシャ様?」

「聞くな」

「へっ、陛下?」

「そして、皆の者。矛を収めよ。これは、皇帝の命令だ」


 皇帝がいるにも関わらず、殺気を纏ったレクシャに、周囲にいた騎士が剣に手を駆けようとした。

 それを威厳のある低い声で止めた皇帝は、いつになく険しい顔をしながら、ひじ掛けでレクシャと同じく強く拳を握った。



「お前だって、今のこいつの様子を見れば分かるだろ?」

「そっ、それは……」



 周囲を威圧するような雰囲気を出しているレクシャを一瞥し、宰相の表情がみるみるうちに強張った。

 それを横目で見た皇帝は、宰相と謁見の間にいる騎士達に聞かせるように、レクシャに視線を戻すと静かに口を開いた。



「国民のためなら、自国の国王だろうが隣国の皇帝だろうが、容赦無く冷酷になれるこいつが、かつてないほどの憎しみに満ちた顔をしているということは……その愚か者と交わした取引は、こいつが愛する家族が関わっているはずだ」

「っ!?」



(国のためなら何でもするこの腹黒宰相の唯一の欠点は、一番大切にしている家族だからな)


 息を呑んでいる宰相をよそに、皇帝は小さく溜息をつくと頬杖をついた。



「さしずめ、『家族に手を出して欲しくなければ、宰相の座を明け渡せ』ってところだろう……そうだな、レクシャ?」

「…………えぇ、大方は合っています」



 そう返事をしたレクシャの脳裏には、王城の前でノルベルトから告げられた一方的な取引が蘇った。



『あなたが宰相の座を明け渡せば、あなたの愛する家族には一切手を出しません』

『っ!?』

『ただし、あなたが明け渡さなければ……』



「正直、私の命と引き換えに奴の暴走が止められるのならば、それで良いと思いました」



 殺気を纏わせたまま、レクシャは懺悔するように呟いた。


(それで、サザランス公爵家が宰相家でいられなくなろうが、どうでもよかった。愛する家族が生きていれば、それでよかった)



「ですが……」



 鬼の形相をしたレクシャは、脳裏に蘇ったノルベルトに小さく肩を震わせた。



『家族もろとも公開処刑をした上で、サザランス公爵家を【ペトロート王国の最大の汚点】として没落させましょう』



「くっ!!」



 今の今まで押さえていた悔しさや憎しみ、怒りを爆発させるように、レクシャは皇帝や宰相達の前で、真っ赤な絨毯に拳を強く叩きつけた。



「私は! 家族が手にかけられることを恐れ、愚かにも奴の卑劣な取引に応じた……いや、応じざるを得なかった!」



(国王陛下や国民の信頼を得て、国の政を取り纏めている宰相として、愚かな判断をしたと分かっている。だが、家族だけは! 私の愛する家族だけは、どうしても手を出して欲しくなかった!)


 懺悔をするようにゆっくりと背中を丸めたレクシャの目には、カトレアやラピス達には決して見せなかった涙が溢れていた。



「レクシャ……」



(国民と家族……どちらも大切にしているこいつにとっては、さぞかし辛い決断だっただろうな)


 皇帝から憐れみの目を向けられているなど知らないレクシャは、脳内で再生されたノルベルトの言葉に悔しさで奥歯を噛み締めた。



『さっさと宰相の座を返せ……この簒奪者』



(私は、愚かにもノルベルトとの取引に応じたあの日を、1日たりとも忘れたことがない……いや、忘れるなんて出来るものか!)


 拘束されているレクシャに向かって、ノルベルトが怨念を込めて放った言葉。

 その言葉は、ペトロート王国で『切れ者宰相』であったレクシャ・サザランスから地位や名誉、そして愛する家族さえも奪った。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!



補足として、レクシャは平民も貴族も同じ国民として大切にしていましたが、とりわけ平民はとても慮っていました。


それはもちろん、彼らが剣や魔法を満足に扱えないことを知っていたからです。


ですから、レクシャが宰相だった頃は、平民向けの魔道具を普及させたり、平民でも剣を習える道場みたいなものを作ったりしようと動いていました。


ゆえに、彼にとって国民を見捨てるという決断は、剣や魔法がまともに扱えない平民を見捨てるのと同じなのです。



そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願い致します。

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