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第217話 解呪と約束

「カトレア! カトレア!」



(しっかりしろ、カトレア!)


 何かを呟いた後、そっと目を閉じたカトレアにラピスは酷く狼狽えた様子で彼女に声をかけた。

 すると、ラピスの肩に部屋の主であるマーザスの手が乗った。



「落ち着いて、ラピス君」

「ですが、マーザス様!」

「よく見て、彼女はただ気を失って眠っているだけだよ」

「あっ……本当だ」



 ラピスの隣にしゃがみ込んだマーザスは、混乱しているラピスを諭した。

 そんな彼の言葉で正気に戻ったラピスは、腕の中にいるカトレアに目を向けた。

 そこには、涙の後が残ったカトレアが目を閉じたまま静かに呼吸していた。



「ね? だったら、そこのソファーに寝かせてあげて。その状態のまま君にかけられた改竄魔法を解いても良いけど……大丈夫? 今の状態だと色々と辛いじゃない?」

「っ!?……お気遣い、感謝いたします」



(確かに、好きな女が腕の中にいる今の状態は……騎士としてある程度耐性をつけているとはいえ、1人の男として色々と意識するから辛すぎる)


 僅かに頬を赤らめたラピスは、眠ったままのカトレアをお姫様抱っこして静かに立ち上がると、そのまま応接用の大きなソファーに彼女を寝かせた。



「フリー、ジア……」



 眉を顰めるカトレアの寝顔を見て、少しだけ顔を歪ませたラピスは、壊れ物を扱うように彼女の頭を優しく撫でた。

 すると、苦しそうにしていたカトレアの表情が柔らかくなった。



「カトレア……」

「どうやら、僕が思った以上に彼女の記憶は改竄されていたみたいだね」



 のんびりとした口調でラピスの隣に立ったマーザスは、少しだけ笑みを浮かべながらカトレアの顔を覗き込んだ。

 そんな彼の飄々とした態度に、ラピスは鋭く睨んだ。



「はぁ……ラピス君。言っておくけど、僕は彼女の要望に応えただけだよ。だから、僕に対して怒りを向けるのはお門違いじゃないかな?」

「……分かっています」



(一番悪いのは、カトレアに改竄魔法をかけた奴だ。頭では分かっている。だが……)


 小さく拳を握ったラピスは、マーザスに向き直った。



「マーザス様」

「どうする? 改竄魔法、解く? 彼女のあんな姿を見た後で」

「…………」



『違う、違うのよ! フリージア!』

『行かないで! 行かないでよ、フリージア!!』

『ごめんなさい、フリージア』



(改竄魔法を解いた後の、今まで見たことが無いカトレアの取り乱しぶりを見て、気が引けないと言ったら嘘になる。でも、だからこそ……)



「まぁ、今の君の状態はカトレア君のものと比べてはるかに軽い方だけど……良いの? カトレア君ほどじゃないけど、それなりに痛みが伴うよ?」

「構いません」



(初めてからその覚悟だ。だって、俺は……)



「俺は、カトレアの騎士であり婚約者です。彼女1人だけに、痛みや苦しみを背負わせるなんて、俺には到底出来ません」



 毅然とした態度で答えたラピスに、挑戦的な笑みを浮かべていたマーザスは大きく目を見開くと優しく微笑んだ。



「本当、君たち2人は……魔法と家族にしか関心が向かないあの親友が気にかけるだけはあるよ」

「マーザス様?」



 思わず首を傾げたラピスに対し、マーザスは小さく首を横に振った。



「いや、何でもない。それじゃあ、早速始めよう。ラピス君は、さっきカトレア君がいた場所に立って」

「分かりました」



 眠っているカトレアを一瞥したラピスは、ソファーから離れるとカトレアのいた場所に立った。

 そして、マーザスはカトレアの改竄魔法を解いた時と同じように、ラピスに向かって銀色の杖を向けた。



「では、行くよ」

「はい」



(カトレア、俺も今からお前と同じように改竄魔法を解くからな。だから、そこで静かに待っていろ)


 姿勢を正して真剣な顔で臨むラピスに、満足げな笑みを浮かべたマーザスは静かに目を閉じると魔力を練り始めた。



『久しぶりです。我が兄弟子であり、我が悪友。早速ではありますが、この手紙を届けたのがカトレア嬢とラピス君だった場合、この杖を預けた時に交わした約束を果たして下さい。そして、約束通り2人に改竄魔法のことを話した後、もし改竄魔法を解きたいと2人がお願いしてきたら、俺の杖を使って解いて下さい。どうせ、宮廷魔法師としてプライドから今のカトレア嬢は魔法解きたいと言うだろうし、それに今のラピス君も彼女1人にさせまいと解きたいと言うと思うので。このような頼み事をして大変申し訳ありません。だけど、同じ師を仰いで、共に切磋琢磨した兄弟子なら……私の唯一無二の悪友なら、私の頼み事もいつもの胡散臭い笑みを浮かべながら叶えてくれると信じています。全てを取り戻したら、また遊びに来ます』



(『胡散臭い笑み』はさすがに余計だけど……ロスペル、君の言う通りになったね。さすが、王国の天才魔法師様ってところ……いや、カトレア君の師匠ってところかな?)


 王族印で厳重に守られていた親友からの手紙を思い出し、小さく笑みを零したマーザスは、練り上げた魔力を杖に刻まれた解呪魔法の魔法陣に流し込んだ。

 白色の魔力が魔法陣を照らした時、そっと目を開けたマーザスはラピスに向かってカトレアと同じ魔法をかけた。



「《ディスペル》」


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


11/12 加筆修正しました。よろしくお願い致します。

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