第213話 解くなら一緒に
「っ!? それって……」
(俺が、顔も知らない誰かによってカトレアや家族や友人の記憶を無くしたり、そいつの駒として自分の意思に関係なく殺めたりすることが出来たりするってことなのか!?)
愕然した表情のラピスに、マーザスは小さく頷いた。
「術者がその気になれば、改竄魔法で対象者の自我を無くす……廃人にすることも出来る。実際、300年前に起きた争いだって、術者が自国の貴族達を全員廃人にして手駒にすることが出来たから起きたみたいだし」
「「300年前の争い?」」
(そう言えばマーザス様、さっきも『300年前が~』っておっしゃっていたけど、300年前に一体に何があったのかしら?)
「マーザス殿、300年前の争いとは一体……」
「あぁ、それさえも忘れてしまったのか。ごめん、今の話は忘れて」
「はっ、はぁ……」
沈痛な表情で頭を抱えたマーザスを見て、ラピスは腑に落ちないまま静かに口を閉じた。
すると、ラピスの隣から白魚のような綺麗な白くて細長い手が、ラピスの大きくて屈強な手を包み込んだ。
「えっ!? カトレア……」
「ラピス、心配してくれてありがとう。でも私、絶対に改竄魔法を解きたい!」
懇願するような目を向けるカトレアに、ラピスは心配そうな顔で少しだけ体を彼女の方に向けた。
「……それは、やはり魔法師として許せないからか?」
「それもあるけど……一番は、マーザス様がおっしゃっていたように、術者のせいで大切な人達の記憶を無くしたくはないし、術者の駒として無差別に誰を殺めるようなことはしたくないの」
(術者の改竄魔法で、大切な人達を忘れることも、廃人になって手駒にとして誰かを殺めることも、国に仕える宮廷魔法師として真っ平ごめんよ!)
ラピスの手を包んだ両手に手に力が入った。
カトレアの揺るがない強い意思を聞いて、ラピスは奥歯を小さく噛み締めると情けない表情を無理やり引き締めた。
「分かった。でも、お前1人だけはしない」
「えっ? ラピス、それってつまり……」
啞然するカトレアをよそに、ラピスは視線をマーザスに移した。
「マーザス殿、お願いがあります」
「『俺にも解呪魔法をかけて欲しい』って?」
「はい」
「ラピス!!」
(あなたまで無理をすることじゃないわ!)
ラピスの決意を聞いたカトレアは、慌てて立ち上がると鎧で覆われたラピスの両肩を両手で掴んだ。
すると、カトレアの細長い手の上から大きな手を重ねられた。
「俺はお前の騎士だ。お前が意地でも改竄魔法を解くと言うのなら、騎士である俺も一緒に解く」
「でもっ! 私に付き合ってあなたが苦しい目に遭わなくても……」
「カトレア」
瞼に涙を浮かべながら心配するカトレアに、ラピスは優しく微笑みかけた。
「俺もお前と同じで、術者によってお前や大切な人達のことを忘れることも、廃人になって手駒として守るべき人達を殺めることもしたくない。これは、自分の意思で決めたことだ」
「ラピス……」
『良いのよ、別に付き合わなくたって』
『いや、これは俺の意思だ。婚約者としてお前の騎士になることは』
(そうだったわ。こいつは、どんなに苦しくても、どんなに無茶なことでも、私の騎士として私の意思を尊重して、『自分の意思』だと言って一緒についてきてくれた。だっだら……)
ラピスの意思を受け取ったカトレアは、両肩に乗せていた両手を離すと、静かにソファーに座った。
「分かったわ、あんたの意思を尊重する」
「あぁ、そうしてくれると助かる」
満足げな笑みを浮かべるラピスに、カトレアは小さく溜息をついた。
すると、ラピスがカトレアの両肩を優しく掴んだ。
「それよりも、体の方は大丈夫なのか? いきなり立ち上がって、とても心配したが」
「えぇ、今迄あんたが支えていてくれていたから大丈夫よ。それに……」
カトレアは目の前にいる帝国の宮廷魔法師に目を向けた。
「今から改竄魔法を解くのだから、ちゃんと体調を整えないと。そうですよね、マーザス様?」
「あぁ、そうだね」
ニッコリと笑ったマーザスは、親友から預かった銀色の杖を持つと立ち上がった。
「それじゃあ、2人の覚悟が決まったことだし早速始めようか」
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。