特別編 感謝と飴と甘い貴方(前編)
ハロウィン特別編!
今回は、カミル視点!
それは、王都に入った時に気づいた。
いつものように村から納品物と仕入リストを預かった私は、珍しく気だるげな騎士の検問を受けると王都に入った。
すると、人通りがあまりないことに眉を顰めた。
(今日はどうしたのかしら? いつになく王都が賑わっていないようだけど)
異様に静かな王都の様子に首を傾げた時、可愛らしい小袋を持った貴族令嬢らしき女の子達とすれ違った。
その瞬間、甘ったるい匂いが鼻腔を擽った。
(この匂いって、もしかして飴かしら? だとしたら……)
「そう言えば、今日は創造神アリアに感謝を伝える日だったわね」
天変地異が襲った地上を鎮めようと、人間に加護を授けた創造神アリア。
その神を信仰しているペトロート王国では、年に一度、創造神アリアに感謝を伝えるという特別な日がある。
その日は、真っ白なマントと身に纏って神の使徒に扮した大人達に、白以外のマントに身を包んだ子どもたちが、創造神アリアに対して感謝の言葉を伝える。
それを聞いた大人達は、創造神からのお恵みとして飴を子ども達にあげる。
すると、飴を貰った子ども達は大はしゃぎをして、それを見て大人達が笑みを浮かべる。
そんな微笑ましい特別な日は、貴族も平民も関係なく、皆が創造神アリアに感謝を伝え、皆が笑顔になっていた……3年前までは。
「毎度あり、兄ちゃんもこんな日も仕事だなんて、随分と災難だな」
女の子達とすれ違ってしばらく、いつものように魔石を買いに来た私に、店主が慰めにもならない慰めの言葉をかけた。
そんな彼に対し、私も慰めにもならない言葉を返した。
「それは、店主様もそうじゃありませんか」
「ハハッ、違いねぇな」
渇いた笑いを漏らした店主の顔を見て、私は少しだけ拳を握った。
3年前、現宰相が『平民の分際で、創造神アリアに感謝を伝えるなど烏滸がましい!』と意味不明な理由で、平民のみ創造神アリアに感謝を伝えることを禁じられた。
現宰相の傍若無人ぶりや、悪徳騎士達に守られていると知っている平民達は、『アテナ様に感謝を伝える日、王都に住む平民は外に出てはいけない。街中が甘い匂いで溢れているから』と外出を自粛するようになった。
「本当は、平民も楽しめる特別な1日だったのに……」
悔しさで一瞬顔を歪めた私を見て、カウンターで小さく溜息をついた店主様が、徐にポケットから何かを取り出して差し出した。
「ほら、やるよ」
「えっ? 店主様、これは?」
小首を傾げる私に、店主が面倒くさそうな顔で答えた。
「飴だ」
「飴、ですか?」
そう言って視線を落とした先には、無造作に包装された小さな3つの球体が、店主様の大きな手のひらに乗っていた。
(確かに、見た目は飴に見えなくもないけど……)
「あぁ、これは『ハッカ』という草で出来た飴だ。大半の冒険者は、クエストに行く前にこれを舐めて気合を入れるんだ」
「へぇ~」
(そんな飴があったのね。知らなかったわ)
「まぁ、ガキどもが好きそうな甘い飴ではないけどな」
「そうなのですか?」
「あぁ、とりあえず受け取ってくれ。こんな日に、わざわざ仕事をしている人間に対してのご褒美だと思ってくれ」
「ご褒美……」
(そんな素敵な物、私がもらってもいいかしら?)
「ほら、黙ってないで受け取れよ! 何だが、急に照れくさくなったじゃねぇか!」
「分かりました。では、お言葉に甘えて」
照れくさそうに頭を搔いている店主様に、一瞬笑みを浮かべた私は初めて聞いた飴を受け取った。
(見た目は、至って普通の飴だけど……)
再び小首を傾げた私は、少しだけくしゃくしゃになった包装紙を開けた。
すると、透明な飴玉が出てきた。
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