第211話 杖に刻まれている魔法
「正直、改竄魔法にかけられている人間なんてあまりお目にかかれないから、魔道具開発の一環として、君たちを実験台にあれこれしたいんだけど……」
「「!?」」
(あれこれって、一体何をさせる気なんだ!?)
なぜだか好奇心に満ちた溢れた目で見ているマーザスに、本能的に身の危険を感じたカトレアとラピスは腰に携えている得物に手をかけた。
その様子に思わず苦笑したマーザスは、降参するように両手を上げた。
「待って待って、本当にそんなことはしないから」
「……本当、ですか?」
「本当だよ。カトレア君の師匠の大親友であることに誓って、君たちに手を出さない。まぁ、君の師匠には随分と煙たがられているけど」
「…………」
「だから、そんな目をしないで! 本当に何もしないから!」
カトレアを守るように険しい顔で睨みつけているラピスに、マーザスが少しだけ冷や汗を掻いた。
すると、ラピスに守られていたカトレアが小さく溜息をついて、ラピスの腕をそっと掴んだ。
「ラピス、止めなさい。ここで、帝国の宮廷魔法師に手を出したらどうなるかくらい、自分でも分かっているのでしょ?」
「だが、カトレア……」
「私は大丈夫。それに、マーザス様が私たちに危害を加えたところで、他国の要人を傷つけた罪で彼に重い処罰が下されるだけよ」
「うわっ! 手厳しいな……でも、本当のことだから何も言えないね」
苦笑いしたマーザスに、警戒を解いたラピスは深く溜息をつくと浅く座っていたソファーに深く座り直した。
それを横目で見たカトレアは、安心して紅茶を飲んでいるマーザスに視線を向けた。
「あの、マーザス様。1つよろしいでしょうか?」
「いいよ。それで、君たちに変な誤解を与えた罪が滅ぼせるのならば」
優雅にティータイムを楽しんでいたマーザスは、自分と杖を交互に見るカトレアの真剣な表情を見て、持っていたティーカップを静かに置くと背筋を伸ばした。
「そちらの杖には、ありとあらゆる非属性魔法の魔法陣が刻まれているのですよね?」
「まぁ、そうだね。ただ、全ての非属性魔法の魔法陣が刻まれているわけじゃないよ」
そう言って杖を持ったマーザスは、刻まれている魔法陣を確かめるようになぞった。
「回復魔法に転移魔法、それと……」
静かに言葉を止めたマーザスは、杖に目を向けていた視線をカトレアに移すと小さく笑みを零した。
「解呪魔法も刻まれているみたいよ」
その瞬間、目を輝かせたカトレアの顔が小さく綻んだ。
「では、私が忘れている師匠の記憶も戻るというわけですね?」
「カトレアお前、一体何を言って……」
「ラピス、少し黙って。これは、魔法を扱う者として大切なことだから」
「っ!?」
(普段は余裕な表情がカトレアのこんな顔をするの、久しぶりに見た)
いつになく真剣な表情のカトレアに、困惑したラピスは言われた通り静かに口を噤んだ。
そんな彼に、一瞬申し訳なさそうな顔をしたカトレアは、再び真剣な表情に戻すと目の前にいるマーザスに視線を移した。
「それで、その杖に刻まれている解呪魔法を使えば、私たちにかけられている改竄魔法を解くことは出来ますよね?」
(帝国の天才魔法師と言われているのだから、出来ないなんて言わせないわ)
僅かに目を細めたカトレアに対し、マーザスは何かを試すような笑みで頷いた。
「そうだね。でも、解呪魔法にはそれなりのリスクがあることくらい、君でも分かっているよね?」
「はい。分かっています」
その瞬間、ラピスの顔が僅かに強張った。
(きっと、解呪魔法のことを知らなかったのだろう。まぁ、無理も無い。この魔法は、魔法を扱っている者にしか知らない魔法なのだから)
僅かに下唇を噛んだラピスを一瞥したマーザスは、小さく溜息をつくとカトレアに視線を戻した。
「解呪魔法は、文字通り呪いに近い魔法……まぁ、主に闇魔法だね。その呪いに近い魔法を解くもの」
「けれど、解呪魔法には、使用者の魔法師としての魔力と技量が求められ、数ある非属性魔法でも会得するのが難しい魔法と言われているのですよね?」
「そうだね。そして、魔法をかける対象者の状態によっては、例え解呪魔法が成功したとしても、かけらえた魔法が解けないこと場合もある」
「……つまり、私たちにかけらえた魔法はそれだけ深刻なものだというのでしょうか?」
眉を顰めたカトレアに、マーザスは小さく首を横に振った。
「いいや。深刻なのは君にだけだよ、カトレア君」
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