閑話 感謝のプリン
今回は、カミル視点です!
それは、カトレア達が夜会に行った日の昼下がりのことだった。
「さて、得意先には全て卸し終えたし、今度は買い物ね」
(確か、今日はお肉とお魚を大量に頼まれていて……)
いつもように、木材や村人達から預かった商品を全て得意先に卸し終えたカミルは、村人達から頼まれた買い物をしようと荷馬車に戻ろうとした。
その時、後ろから声がかかった。
「木こりの兄ちゃん!」
(あれっ? この声って、確か……)
ゆっくりと足を止めたカミルは、無表情のまま静かに後ろを振り返った。
そこには、後ろに何かを隠してニコニコしている少年が立っていた。
(この子って、さっき木材を卸した得意先の店主様の息子さんじゃない)
一瞬笑みを浮かべたカミルは、すぐさま無表情に戻すと少年と目線を合わせるためにその場にしゃがんだ。
「どうしましたか? 何か私に、頼み事ですか?」
(大方、お父上である店主様に何か頼まれたのでしょうけど)
相手に警戒心を与えぬよう可愛らしく小首を傾げるカミルに対し、満面の笑みを浮かべた少年は後ろに隠していた物を差し出した。
「はい、これ! 木こりの兄ちゃんにあげる!」
「っ!? これは……プリン、ですか?」
一瞬だけ驚いたカミルの視線の先には、小さなガラス瓶に入ったプリンが少年の手に収まっていた。
(久しぶりにプリンを見たわ……でも、どうしてこれを私に?)
一瞬だけ微笑んだカミルが思わず眉を寄せると、少年は笑みを浮かべながら答えた。
「そうだよ! それも、母ちゃんが作った美味しいプリン!」
「お母様が、こちらを作られたのですか?」
「うん! うちの母ちゃん、お菓子作りが大好きでさ! 特に、母ちゃんが作るプリンは王国で一番美味いんだぜ!」
「そうなのですね」
(確か、この子のお父上が経営されているお店は、表向きは平民向けのお店だけど、実は王都で一番の大きさを誇る商会の系列店。そして、この子のお母上は商会を運営している貴族の次女か三女だったはず。だとしたら、平民では入手しづらい卵や砂糖が手に入るのも納得がいくわね。恐らく、商会の伝手で手に入れたのだろう)
目の前にあるプリンを冷静に観察したカミルが1人納得していると、少年がプリンを持ったままカミルの耳元に囁いた。
「実は、このプリン。母ちゃんが『いつもありがとう』って思っている人にしか渡さないんだぜ」
「えっ?」
(それって、私の仕事に対して感謝しているってこと?)
騎士や村人達から冷遇されることが常であるカミルは、すっかり冷え切った心に僅かに温かな火が灯るのを感じた。
すると、カミルから離れた少年がカミルの手にプリンを無理矢理持たせた。
「あっ、あの……」
「そのプリン、絶対食べてくれよな! あと、母ちゃんが『次は、木こりさんのお弟子さんも一緒に来てね!』だってさ!」
「はい?」
(どうしてここでメスト様が出てくるの!?)
少しだけ唖然とした顔をしたカミルに、用が済んだとばかりに背を向けた少年が大きく手を振った。
「それじゃあな! また店に遊びに来いよ!」
「えっ、あっ、ありがとうございます」
元気よく走り去った少年に深く頭を下げたカミルは、立ち上がると無理矢理持たされたプリンに視線を落とした。
(『いつもありがとうって思っている人しか渡さない』ね……)
「何だか、久しぶりに純粋な気持ちを受け取った気がするわ」
小さく笑みを浮かべたカミルは、手の中にあるプリンに視線を落とした。
(何だか、プリンを見ていると懐かしい気分になるわ。きっと、屋敷にいた頃……私が貴族だった頃に、お菓子好きのシェフがよく出していたからね)
「後は……あの子も好きだったわね」
『フリージア! このプリン、とても美味しいわ! 今度、うちのシェフに作らせるからレシピ教えて!』
(下のお兄様と魔法の鍛錬をした後、幸せそうな顔でプリンを食べていたわね……)
「って、そろそろ買い物に行かないと! また村長や村人達に怒られるわ」
懐かしい思い出に少しだけ寂しい笑みを浮かべたカミルは、何かを払拭するように小さく首を横に振ると手の中にあるプリンを大事そうに懐に入れた。
その後、少年から貰ったプリンは夕飯後のデザートになった。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
お久しぶりの主人公登場!
カトレアが記憶を取り戻したタイミングで閑話として入れられて良かったです。
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(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)