第203話 城に招待されたのは?
帝都に着いた王国一行は、そのまま王国側が事前に用意していた一番大きな宿で一夜を過ごす。
その翌日、一行は目的の1つである王城近くにある帝都魔法研究所を訪れた。
「マクシェル様、でしょうか?」
広大な敷地にある巨大研究施設に、研究者達が胸を躍らせていると、王城から来た帝国騎士が、研究者達の傍にいたマクシェルに声をかけてきた。
「すみません、うちの下級文官に何か用でしょうか?」
マクシェルのすぐ隣で護衛していたラピスが、警戒するようにマクシェルを守るように彼の前に立った。
すると、眉を顰めた帝国騎士が、そのままラピスを睨みつけた。
「何、貴様には関係ないことだ」
「はっ?」
(こいつ、他国の騎士である俺に対して何を……)
「安心しろ、平民に手を上げる王国騎士と違って、帝国騎士である私は、貴様の後ろにいる彼に危害を加えるつもりは一切ない」
「なっ!」
(宰相閣下の采配で周辺諸国とは断絶状態だと聞いたから、てっきり王国の現状を周辺諸国は知らないと思っていたが……まさか、帝国に王国の現状が届いていたとは)
侮蔑を含んだ帝国騎士の言葉に、ラピスが唖然としていると、後ろからマクシェルが人の良さそうな笑みを浮かべながら出てきた。
そして、鎧で覆われたラピスの肩にそっと手を置いた。
「ラピス殿、大丈夫ですよ。恐らく彼は、主の命令でこちらに来たのでしょう」
「主の命令? そうなのか?」
驚いたラピスが、マクシェルから帝国騎士に視線を移すと、帝国騎士が深く頷いた。
「いかにも、私は、ペトロート王国下級文官のマクシェル様を我が国の城にお連れするよう、主に命じられてこちらに来た次第」
「「城に!?」」
(下級文官であるマクシェル殿が、どうして皇帝が住まう城に!?)
いつの間にかラピスの隣に来て、彼と一緒に驚きの声を上げたカトレアは、すかさず帝国騎士に詰め寄った。
「ねぇ、どうして王国で『稀代の天才魔法師様』と言われている私より、どこにでもいそうな顔をした下級文官が、城に連れて行かなくちゃいけないの!?」
「アハハッ! どこにでもいそうな顔とは、これは手厳しい」
「そんなことを言っている場合ですか! おい、カトレア! 口を慎め! ここは、王国じゃなくて帝国なんだぞ」
「だって、こんなの納得できないでしょ!?」
(どうして、貴族出身であり天才魔法師様である私じゃなくて、ワケアリ下級文官が呼ばれるのよ!!)
癇癪を起こすカトレアをラピスが宥めていると、3人のやり取りを見ていた帝国騎士が呆れたように深いため息をついた。
「はぁぁ……主の命令があれば、今すぐ『不敬罪』でこの天才魔法師を切り捨てることが出来るのだが」
「はぁ!?」
(何で、私が不敬罪で切り捨てられないといけないのよ!)
顔を真っ赤にしながら帝国騎士に噛みつくカトレアとは反対に、笑みを浮かべたままのマクシェルは、帝国騎士に目を向けると頭を下げた。
「申し訳ございませんが、それだけはやめていただきたい。この方達は、あなた方と違って忘れてしまったのですから」
「「えっ?」」
「ちょっ、分かりましたから頭を上げてください! 一介の騎士が、あなた様に頭を下げさせたと主に知られでもしたら……」
(忘れてしまった? 私たちが一体、何を忘れたっていうのよ?)
なぜか悲しそうな顔をするマクシェルの言葉に、カトレアとラピスは揃って眉を顰めた。
そんな2人をよそに、慌ててマクシェルの頭を上げさせた帝国騎士は、心底疲れた顔をしながら再び深く溜息をついた。
「はぁぁ……すみません、あなた様に対する態度を目にすると、ついその事実を忘れてしまい……」
「フフフッ、良いのですよ。今の彼らの目には、私はワケアリ下級文官としか映っていませんから」
帝国騎士の少しだけ悔しそうな顔に、マクシェルは優しい笑みを浮かべるとカトレアとラピスに向き直った。
「そういうことですので、今から私は、こちらにいる帝国騎士様と城に行って参ります。よろしいですか、ラピス殿?」
「あっ、はい……こちらとしては、今日中に宿に戻ってきていただければ構いませんので」
「分かりました」
「そして一応、このことは他の者にも私から伝えておきます」
「お気遣いありがとうございます。それで……カトレア様」
「何でしょう?」
心底不機嫌なカトレアに、マクシェルは少しだけ申し訳なさそうな顔をすると、懐から一通の手紙と四つ折りにされた紙を取り出した。
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。