第190話 騎士と文官の決意
今回は、伏線回! ここから物語が動きます!
「お久しぶりです、フェビル君」
「……ご無沙汰しております、マクシェル殿」
カトレア達に会話が聞かれないよう、かなり離れた場所までフェビルを連れて来たマクシェルは、気まずそうに視線を逸らしているフェビルに笑いかけた。
「元気にしていましたか?」
「はい、お陰様で何とか」
「そうですか。それは何よりです」
視線をこちらに向けないフェビルに、マクシェルは何かを思い出して楽しそうな笑みを浮かべた。
「そう言えば、聞きましたよ。王都に来てすぐ、随分と無茶をされたみたいですね」
「いえ、辺境に比べればたいしたことではありません」
「ハハッ! 確かに、光属性の結界魔法が張られている王都では、魔物なんて滅多に出ませんから、辺境で君がしたことに比べれば、たいしたことではないのかもしれませんね」
王族だけが使えると光属性の魔法は、あらゆる魔を寄せ付けないと言われている。
そのため、王族が住まう王都には光属性の結界魔法が張られており、王都で魔物が出現することは全く出ないと言っても過言ではない。
もちろん、結界の維持をするのは王族の役目である。
(本当は、王国を囲むように設置されている魔法陣と、初級魔法一回分の魔力を使い、王都を中心に王国全土を結界魔法で覆われていた。だが……)
遥か遠くに聳え立つ王城を一瞥したマクシェルは、一瞬だけ苦い顔をするとすぐさま笑みを浮かべ、遠くにいるラピスやカトレアを見やった。
「ラピス君、見ないうちに随分と頼もしい騎士になりましたね。カトレア嬢は『稀代の天才魔法師様』と呼ばれるくらいに成長されたのですか」
「まぁ、そうですね……」
(本当は、あなた様のご子息が名乗っていた二つ名なのに)
悔しそうに顔を歪めるフェビルを見て、マクシェルは小さく溜息をつくとここにいない人物の名前を出した。
「それと、シトリン君やメスト君は息災ですか?」
「はい。2人とも有能な部下としてとても頼り強いです」
「そうですか。それなら良かったです」
(特に、メスト君は私の娘の想い人なのだから)
フェビルから2人が元気にしていることを聞いて、マクシェルはとても安心したような笑みを浮かべた。
すると、視界の端にフェビルが付けている腕輪が映った。
「その腕輪、ちゃんとつけているのですね」
「はい。あの方を通してあなた様に託されましたから」
「そう、でしたね……」
マクシェルに腕輪を見せたフェビルの真剣な表情に、マクシェルは小さく溜息をつくと何かを懐かしむような顔で朝焼けに染まる王城を見た。
「本当は、辺境にある男爵貴族家で執事の真似事でもしようと思ったのですが、あのお方が『それは絶対ダメだ!』と猛反対され……仕方なく、下級文官をしているのです」
「そう、だったのですね」
小さく下唇を噛んだフェビルが再び俯くと、王城から視線を逸らしたマクシェルは、笑みを浮かべたまま彼に背を向けた。
そして、雲一つない空を見上げた。
「私は、あなたやあなたの家族にとても重い物を背負わせてしまいました」
「っ!?」
穏やかな声に乗ったマクシェルの言葉に、目を見張ったフェビルはマクシェルの背中を凝視した。
(本当に、彼と彼の家族には重い物を背負わせてしまった。本来なら、私だけが背負うはずのものを……)
「あなたやあなたの家族を巻き込んだ責任は、目的を果たした後、必ず取らせていただきます」
「レクシャ様! 私は別に……」
(私はただ、あの時の恩返しをしようと……)
フェビルが何かを言い連ねようと口を開いたその時、遠くから白い仮面に黒いローブを着た男が走ってきた。
そして、マクシェルの隣に立ち止まった。
「マクシェル様、ルベル団長から『そろそろ』と」
「分かりました」
男に向かって小さく頷いたマクシェルは、振り返って目の前にいる近衛騎士団団長と向き合った。
「それでは、フェビル団長。行ってきますね」
「……はい、お気をつけて」
悔しそうな顔で拳を握るフェビルに、マクシェルはそっと耳打ちした。
「私が帝国から戻ってきたら、全てを取り戻すために動く」
「っ!?」
(それって、つまり……)
驚いて顔を上げたフェビルは、隣にいたマクシェルの淡い緑色の瞳とかち合った。
「その時は、手伝ってもらっていいかな?」
彼の笑みを見たフェビルは、初めて彼に会った時のことを思い出した。
『だったら、君が次の第二騎士団の団長になってみない?』
(国民の誰もがあなた様を忘れ、俺を今の地位にしてくれた時から、俺の覚悟は決まっていた)
「もちろんです! 宰相閣下!」
フェビルの決意の籠った頼もしい返事を聞いて、マクシェルは楽しそうな笑顔を見せた。
「ハハッ! 今の私は、ただの下級文官ですよ」
そう言って、黒ローブの男と共にその場を後にした彼は、小声で黒ローブの男と会話をすると、カトレア達の待つ一団に戻った。
「後は頼んだ、ロスペル」
「分かっています、父上」
小声で言葉を交わした親子の視線の先には、王都の門の陰に隠れ、酷くつまらなそうな顔をしながらこちらを見ている女がいた。
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。