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第186話 久しぶりの夜会で④

少しだけ大人な表現が出てきます。ご注意下さい。

「《ヒール》」



 満足げな笑みを浮かべながら4人の前からダリアが去った後、シトリンは扉の近くで警備をしていた知り合いの騎士に声をかけ、カトレアに治癒魔法をかけた。



「大丈夫か? カトレア」

「えぇ、大丈夫よ。ラピス、庇ってくれてありがとう」

「いや、俺は騎士としても婚約者としてもお前を守ることが出来なかった。むしろ、すまなかった」



 悔しそうに俯くラピスを見て、カトレアは小さく首を横に振った。



「良いのよ。元はと言えば、宮廷魔法師であるはずの私が、ダリアの魔力に気づかなかったのが悪かったのだから」

「それでも、俺は……」

「それよりも、手を貸してもらえる?」

「あっ、あぁ……もちろんだ」



(カトレアはあぁ言ってくれたが……それでも、俺があの女の行動にいち早く気づくことが出来たら、社交の場で婚約者が倒れることなんてなかった)


 己の不甲斐なさを心底悔いているラピスは、顔を歪ませたまま倒れている婚約者に、そっと手を差し伸べた。


(すぐ傍で助けてくれただけで、本当に嬉しかったのに)


 真面目な婚約者の純粋な優しさに、思わず微笑んだカトレアは、差し出された大きな手を取ると静かに立ち上がった。

 そして、横にいたシトリンと彼の部下を見た。



「シトリン様や部下の方も、本当にありがとうございました」

「良いよ。僕はただ、知り合いの部下を呼んだだけだから。君もありがとうね。仕事に戻って大丈夫だよ」

「ハッ!」



 綺麗に敬礼して去った部下に、シトリンは小さく笑みを浮かべると、そのままメストに視線を向けた。



「ダリア、お前は……」



(カトレア嬢と友人関係ではなかったのか?)


 ダリアのカトレアに対する傍若無人な振る舞いに、メストは悪夢を見たような沈んだ気持ちになった。

 そんな彼に気づいたカトレアは、小さく溜息をつくと会場に目を向けた。



「そもそも、ここって本当に夜会なの? まるで、社交界で噂のいかがわしい仮面舞踏会だわ」



  眉を顰めたカトレアの視線の先には、会場のあちらこちらで未婚の若い男女が、華やかな音楽に合わせ、人目を気にせず堂々と体を寄せながら乳繰り合っていた。



「確かに、こういった公の場においての婚約者との距離感が、僕の知っているそれとは明らかに違う。すごく近いもん」



 笑みを浮かべながら冷たい目を向けるシトリンに、何とか立ち直ったラピスが会場に目を向けると心底溜息をついた。



「それに、不用意なスキンシップも多いです。ここにいるカップルが、本当に婚約者同士なのか疑ってしまいます」

「そうね。でも見た限り、婚約者同士って感じでもないみたい」

「……そうだな」



(情操を重んじ、醜聞が家にとって命取りになる社交の場で、婚約者同士が公衆の面前で唇を交わしたり、際どいドレスから覗く肌を嘗め回すように触ったりするなんてありえないから)



「だとしたら、俺たち以外のカップルは、婚約者でもない奴と体を寄せているってことか?」

「そうだね。これが本当に噂に聞く仮面舞踏会ならだけど」

「確かに……噂の仮面舞踏会って、肌を見せても問題無かったんでしたよね?」

「僕はそう聞いたよ」

「でしたら良かったですね、シトリン殿。この場に自分の婚約者を連れて来なくて」

「本当、良かったよ。自分の婚約者は公の場で肌を曝すなんて見たくないから」

「…………」



 会場に賑やかな音楽が流れる中、会場の至る所で婚約者でもない男女が、淫らに肌を曝け出して体を寄せ合っている様子に、シトリンとラピスが辛辣な言葉を浴びせた。

 そんな中、ずっと眉を顰めていたカトレアが小首を傾げた。



「それにしても、いつからこんなに下品なものになったのかしら?」

「いつからって……少なくとも、ダリア嬢が宰相家令嬢になってからじゃない?」

「確かに、そうかもしれませんわね」



(だって、デビュタントを迎える前に初めて来た夜会はもっと品があってから)


 シトリンの言葉にカトレアが同意したその時、彼女の脳裏にデビュタントを迎えた時の記憶が蘇った。



『すごいわね、カトレア! こんな煌びやかな場所、初めて来たわ!』

『本当ね! 私たち、ここでデビュタントを迎えるのね!』



「うっ!!」

「カトレア!? どうした!?」



 突然激しい頭痛に襲われ、倒れそうになったカトレアを再びラピスが支えた。



「ありがとう、ラピス。今日は何だか、体調が優れないみたい」

「そのようだな。それじゃあ、ここで帰るとしよう。明日は、いよいよ護衛任務だから」

「えぇ、そうね」

「それなら、僕も帰るよ」

「シトリン様? いつの間にいなくなっていたのですか?」



 ラピスがゆっくりとカトレアの華奢な体を起こすと、どこかへ行っていたシトリンが戻って来た。



「今さっきだよ。カトレア嬢の体調が優れないみたいだから、部下に馬車の手配をお願いしたんだよ」

「それは……本当にありがとうございます」

「良いよ。僕も丁度帰ろうと思っていたし。それに、メストも僕と同じことを思っていたでしょ?」

「えっ!?……そっ、そうだな」



(まぁ、俺がここにいてもダリアにとって邪魔でしか無いから)



 こうして、4人はダリアの卑猥な声を耳にする前に下品な夜会を後にした。


最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


次回、閑話を挟みます。


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。


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