閑話 うたかたのゆめ
※カミル視点です。
メスト様が初めて我が家に泊まりに来た夜、懐かしい夢を見た。
目を開ければ、そこには真っ白な天蓋。
そして、私の名前を呼んで起こしに来た侍女の声。
ゆっくりとベッドから起き上がった私は、侍女と楽しくお喋りしながら身支度を済ませる。
綺麗なドレスに身を包んだ私は、部屋を出てそのまま食堂に行った。
後ろからついてきた侍女に扉を開けてもらうと、家族全員が笑顔で迎えてくれた。
次期当主として父に代わって領地運営をしている上の兄。
『稀代の天才魔法師』の2つ名を持ち、宮廷魔法師団副団長として活躍する下の兄。
かつては『社交界の華』と呼ばれ、今は公爵夫人として社交界を取り仕切る美しくも強い母。
そして、温厚ながらも『切れ者宰相』と呼ばれ、国のために多忙を極める父。
そんな家族と囲むご飯が、私は大好きだった。
上の兄と下の兄が何かしらで言い争いを始めると、見かねた母が厳しく諌める。
その様子を見て私は茶化し、父は穏やかに笑って場を収める。
ご飯を食べ終えたら、家庭教師から貴族令嬢としつ色んなことを学ぶ。
正直、机に座って勉強するより、訓練場で思いっきり剣の鍛錬をしたい。
でも、女主人である母がそれを許さないので、公爵令嬢として……そして、宰相家令嬢としてちゃんと勉強する。
ご飯を挟んで、家庭教師から色んなことを学び終えると、待ちに待った剣の鍛錬。
いつもは、私兵に混じって鍛錬をしていて、たまに上の兄や父が相手をしてくれる。
公爵家の娘でも容赦無く打ってくる私兵との鍛錬は、私にとってとても有意義な時間。
でも、私にとってそれ以上に有意義な時間がある。
それは……婚約者との2人だけの時間。
鍛錬が終わった後に屋敷に来る彼は、とても生真面目で凛々しく、婚約者である私にとても紳士で優しい。
そんな彼と過ごす時間が、家族と一緒に過ごす時間と同じくらい……いや、もしかするとそれ以上に好きなのかもしれない。
小鳥の囀りが聞こえて目が覚めると、木目の天井が広がっていた。
久しぶりにあの夢を見たわ。
心地よい夢から醒めた私は、体を起こして伸ばすとベッドから抜け出した。
あの何でもない日常は、今の私にとっては泡沫の夢。
夢と現実の落差に絶望し、涙を流したこともあった。
でも、それもう慣れた……いや、慣れてしまった。
「今はもう、どうしようもないのだから」
温かくて優しい家族も、親しい友人も、愛しい婚約者も、今の私にはいない。
胸の中に広がる絶望に小さく溜息をつくと、木こりの服を身につけて姿見の前で確認をした。
この姿にも慣れてしまったわね。
小柄な男性にしか見えない自分の姿に、思わず苦笑いを浮かべると、そのまま視線を横にずらした。
「それじゃあ、行ってきます」
部屋に飾っていた家族写真に優しく微笑むと、ベレー帽を被り、アイマスクをつけて部屋を出た。
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。