第177話 手を組む団長
2人の団長が揃ってため息をついた時、ルベルが腕を組みながら背凭れに背中を預ける。
「それにしても、どうして今の今まで俺やお前に平民の話が上がってこなかったんだ? そんな話があれば、真っ先に団の耳に届くだが?」
首を傾げるルベルに、俯いたままのフェビルが深く溜息をつくと膝の上で組んでいた両手に力を込める。
「大方、貴族である自分達より強い平民を心底気に食わなかったのでしょう」
「はっ?」
顔を顰めているルベルに、フェビルは沈痛な面持ちで平民について改めて説明する。
「ルベル殿も先程おっしゃっていましたが、その平民はレイピアに魔力を纏わせて魔法を打ち消します。それに加え、彼は単独で魔物討伐も出来る程の剣技の持ち主らしいです。ですので、平民ながら貴族顔負けの実力を持ち合わせている彼を、貴族出身の彼らが気に入らなかった。そして、自分達を負かしている平民の存在を団長に知られるわけにはいかなかった」
「つまり、貴族としてのプライドが傷つくから意図的に隠したと?」
「そういうことだと思います」
(そう言えば、あの平民について話してくれた部下達も、『貴族としてのプライドが許さなかったから、あの平民について話さなかった』みたいなことを言っていたな)
「全く、どいつもこいつも貴族だの平民だの、身分に固執しやがって」
(そんなことに一々拘っていたら、この国を守ることすら出来なくなるぞ)
フェビルの話を聞いて、部下達の話を思い出したルベルは、悪態をつくと天井に向かって深いため息をつく。
すると、フェビルが神妙な面持ちでゆっくりと顔を上げる。
「それと、これは部下から報告を受けた後、騎士達全員に聞いたのですが、平民の存在を意図的に隠していた奴らは全員、あの宰相閣下の息をかかっていました」
それは、メストとシトリンから例の平民について報告を受けた後のこと。
レイピアを持つ平民のことが気になったフェビルとグレアは、王都に常駐してる全ての騎士達に平民について知らないか自ら聞いて回った。
すると、宰相閣下の息のかかった騎士達は全員知っていて、全員が貴族のプライドの理由に例の平民の存在を意図的に隠していた。
フェビルから『宰相閣下』の名前が出ると、天井を見ていたルベルの顔が僅かに険しくなる。
「そうか、お前のところもそうだったのか」
「というと、宮廷魔法師団の方も?」
「あぁ、俺の場合、その息のかかった奴らから平民のことについて聞いた」
「そうだったのですね」
(それにしても、まさかここまで宰相閣下の息がかかっていたとは……まぁ、俺のところはフェビルのところに比べれば比較的マシなのかもしれない。なにせ、近衛騎士団の大半……王族に関わる部隊は全て、宰相の手中にあるのだから。きっと、動きづらいったらありゃしないだろうな)
宰相ノルベルトのせいで近衛騎士団を纏められないフェビルを憐れに思う反面、ルベルは騎士達全員から話を聞けたフェビルとグレアの手腕に関心する。
「それにしてもお前達、よく騎士達全員から聞き出せたな。色々と大変だったろ?」
「まぁ、そうですね。『宰相閣下以外には従わないし、絶対に口を利かない』と立場を全く理解していないバカがわんさかいたので大変でした。なぁ、グレア?」
「はい。改めて、宰相閣下の影響を思い知りましたよ」
「それはまた……」
騎士達から話を聞いた時のことを思い出し、酷く疲れた顔をしたフェビルとグレア。
そんな2人の話を聞いて、小さく息を吐いたルベルは姿勢を前に戻すとフェビルに微笑みかける。
「なぁ、フェビル」
「何でしょう?」
グレアがティーカップに注いでくれた紅茶を飲み、気持ちを落ち着けていたフェビルはティーカップを置いて視線を前に向ける。
「俺と一緒に、宰相閣下に一泡吹かせないか?」
「それは……」
悪い笑みを浮かべるルベルからを見て、再び俯いたフェビルの脳裏に、第二騎士団に選ばれる前のことが蘇る。
『だったら、君が次の第二騎士団の団長になってみない?』
(あの夜会の日、俺に声をかけてくれた宰相閣下……銀色の短髪に淡い緑の瞳で常に朗らかな笑顔なあの方は、近衛騎士団長になった今の俺を見てどう思っているのだろう?)
『ハハッ、何を謙遜しているんだい! 私はね、兼ねてから君の人を見る目と型破りな采配……そして、君のことを心の底から慕う部下達の有能さに注目していたんだよ』
「くっ!」
「フェビル?」
恩人の温かな笑みを思い出したフェビルは、悔しさのあまり緩めていた両手に再び力を入れる。
(もし、『俺があなたのために国に対して独自で反旗を起こす』と伝えたら、誰よりも国のことを思っていたあなたはどんな返事をするのだろう?)
「フェビル、どうした? 急に黙って」
「あっ……すみません。つい、考え込んでしまいました」
「そ、そうか。まぁ、そんなに深く考え込む……ことでもあるな。なにせ、俺とお前は、この国の防衛を担っている集団を纏めているのだから」
「そうですね」
再びゆっくりと顔を上げたフェビルは、ニヤリと笑うルベルと視線を合わせる。
「それで、どうするんだ?」
『どうか、私の……いや、この国に本当の『王国の盾』が戻り、この国に再び平穏が戻るまで民のために戦って欲しい』
(国王陛下、私……いや、俺は……!)
悪そうな笑みを浮かべるルベルの両手首を見たフェビルは、小さく溜息をつくと楽しそうに微笑む。
「そうですね。あのバカ宰相に一泡吹かせる算段がついたら共闘しましょう」
(あの方が戻る前に、陛下から頂いた腕輪を持っていないこの頼りになる方と共にバカ宰相を殴りに行くかもしれません)
この国を憐れんでいるフェビルは、約束を反抗にする覚悟でルベルの誘いに笑顔で応じた。
だが、それが無かったことになるとは、この時のフェビルは思いもしなかった。
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。




