第176話 平民を知った経緯
「フェビル。お前、レイピアを使って魔法を打ち消す平民のことを知っているな?」
「「っ!?」」
真剣な表情のルベルから問われた瞬間、フェビルとグレアの表情が一瞬で強張る。
それを見て、盛大に溜息をついたルベルはソファーの背もたれにだらしなく体を預ける。
「はぁ、その様子だと知っている……いや、知っていたみたいだな。となると、知らなかったのは俺だけか」
「も、申し訳ございません」
申し訳なさそうに深く頭を下げたフェビルとグレアを見て、ルベルは見定めるような目をやめると天井に視線を向ける。
(まぁ、2人の様子を見る限り、宮廷魔法師団団長である俺に対して故意的に隠そうとは思っていなかったのだろう)
「構わん。どうせ、前の騎士団長が故意的に隠していたのだろう」
「は、はぁ……」
(そう言えば、前の騎士団長はルベル団長と犬猿の仲で有名だったな)
恐る恐る顔を上げたフェビルに、小さく溜息をついたルベルは情けない感情を含んだ笑みを浮かべる。
「それに、俺の部下にも何人か知っていた奴がいた。だから、知らなかったのは俺だけってわけだ」
「そうなのですか?」
「あぁ、そうだ。それも、知ったのは2週間前もことだ」
そう言って深く溜息をついたルベルは、約2週間前に部下から聞いた話をフェビルに話始める。
◇◇◇◇◇
それは、魔物討伐を終えて王都に帰還した時のことだった。
部下達と共に転移陣を使って宮廷魔法師団本部に戻ってきたルベルは、執務室に戻る道中、平民に向かって魔法を撃ったカトレアに頭を悩ませていた。
「さて、どうしたものか……」
(いくら『稀代の天才魔法師』と言われているからって、国を守る宮廷魔法師が、守るべきものを自らの手で殺めるようなことをしてどうするんだ!)
「一先ず、今回の魔物討伐の事後処理が終わり次第、カトレアから事情を詳しく聞いて……ん?」
カトレアの失態についてルベルの中で考えが纏まった時、前を歩いていた部下の言葉がルベルの耳に入ってきた。
「おい、あの平民またいたぞ」
(ん? あの平民?)
部下が忌々し気に呟いた『あの平民』という言葉に、ルベルが眉を顰めると脳裏にレイピアを持った木こりがルベルの脳裏を過る。
『それでは、失礼致します』
(もしかして、前を歩いているあいつらが話している『あの平民』って、カトレアが魔法を放った平民のことか? それに『また』って……)
部下の言葉に引っ掛かりを覚えたルベルは、後ろで考える素振りをしながら前を歩く2人の部下の会話に耳を傾ける。
「いたな。本当、目障りだよな!」
「でも、カトレア様があの平民に向かって魔法を撃ってくれたお陰でスカッとした!」
「そうだな! さすが、稀代の天才魔法師! 卑しい平民に対しても容赦が無い……」
「なぁ」
「「ヒッ!!」」
気配を消して後ろから近づいたルベルは、2人の部下の肩をがっちり掴むと冷たい笑みを浮かべながら彼らの耳元で囁く。
「その話、今すぐ団長室で詳しく聞かせてもらおうか?」
「「は、はい!!」」
笑顔で部下達を脅したルベルはその後、カトレアの件を一旦保留にすると、すぐさま『例の平民』について知っている部下達から話を聞いた。
そして翌日、ルベルは事後処理と並行しながら『例の平民』について知っている部下がいないか探して話を聞いていった。
「まさか、大半の部下があの平民について知っていたとは……」
魔物討伐から5日後。
魔物討伐の事後処理をする傍ら、平民について知っている部下達全員から話を聞いたルベルは、執務室の自席で1人、頭を抱える。
『魔力を持った平民? もちろん知っていますよ。王都では有名人ですから』
『あぁ、あの平民のことですか? 『騎士殺し』で有名な。あの平民、本当に生意気ですよね』
『知っていましたよ。でも、主に騎士を相手にしているので特に気にしてはいませんでしたが』
『『何で報告しなかった?』って、当たり前じゃないですか! 高貴な貴族が平民のことを口にするなんてありえません!』
「その上、あの平民のことを知っていた部下達全員が、あの忌々しい宰相閣下の息がかかった連中……クソッ!」
苦々しい表情で思いっ切り机を叩いたルベルは、深く溜息をつくと机の上で両手を組んだ。
「とりあえず、先にカトレアの件を片付けよう。そして、片付き次第、フェビルのところに行って話を聞こう」
(部下達は揃いも揃って、あの平民のことを『騎士殺し』と言っていた。だとしたら、もしかしなくても、あいつは俺以上にあの平民について知っている)
その2日後、ルベルはカトレアから話を聞き、その更に1週間後、ルベルはカトレアに『処罰』という名目の時間稼ぎを頼んだ。
◇◇◇◇◇
「……なるほど、ルベル団長も部下から話を聞いて、その平民のことを知ったのですね」
「『も』ってことは、フェビルも部下から話を聞いて知ったのか?」
意外そうな顔をするルベルに、フェビルは苦々しい顔で両手を組むと顔を俯かせる。
「えぇ、私も部下の失態で頭を悩ませていた時、別の部下からその平民について話を聞いたのです」
「そうだったのか」
(こいつもまた、俺と同じく部下の失態で知ったのか)
似たような経緯でワケアリ平民について知った2人は、揃って深いため息をついた。
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。