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第166話 歩きたい気分

「カミル!」

「っ!?」



 カトレアとの出会いを振り返り、感傷的になっていたカミルは、後ろから聞き覚えのある声で名前を呼ばれて思わず肩を震わす。


(どうして戻ってきたの? てっきり、カトレア達と王都に帰ったと思ったのに)



「カミル! 待ってくれ!」



 必死な男の声に引き留められ、ゆっくりと足を止めたカミルが振り返ると、森の奥から強化魔法を身に纏ったメストが全速力で走っていた。


(魔物討伐で魔力を多く使ったはずなのに、強化魔法を使って追いかけてくれたなんて)


 魔物討伐でたくさん魔法を使ったはずのメストが、強化魔法を使って追いかけてくれたことにカミルの胸が僅かに高鳴る。

 すると、走って汗だくのメストがカミルに追いつく。



「はぁ、はぁ……やっと追いついた。前々から思っていたが、カミルって歩くのが速いんだな」



 息を切らしながらも優しく微笑むメストに、一瞬目を見開いたカミルはすぐさま無表情に戻すと小さく首を横に振る。



「そんなことはありません。至って普通の速さですよ」

「ハハッ、そうか」



 カミルの答えに楽しそうに笑ったメストは、大きく息を吐いて乱れた呼吸を整えると、汗で濡れた髪を鬱陶しそうにかき上げる。

 それを目の当たりにしたカミルは、思わず顔を背ける。


(メスト様の髪を上げる仕草が、あまりにも色っぽすぎて目に毒……って、そうじゃない!)



「カミル、どうした?」

「いえ、何も」


 

 大きく深呼吸してかき乱された気持ちを無理矢理落ち着かせたカミルは、視線をメストに戻す。



「それよりも、あの方達と一緒に帰らなくて良かったのですか?」

「えっ? どうしてだ?」

「『どうしてだ?』って、もちろん王都に帰れるからですよ。魔物討伐でお疲れの状態で、明日仕事に向かわれるのですか?」

「いや、それはさすがに騎士としてどうかと思うが……」

「それならば、王都に帰ってさっさと休んだ方がいいのでは?」

「そう、かもしれないが……カミルの家に俺の荷物を置いたまま帰れるわけがないだろ?」



(確かにそうだけど、でもそんなの……)



「明日の朝、我が家へ取りに良いじゃないですか。安心してください。毎日生きるのに必死な平民とはいえ、あなた様の私物を盗むなんて愚かなことはしませんから」



 きっぱりと言い切ったカミルに対し、メストは眉間に皺を寄せながら首を傾げる。



「それなら尚更、カミルの家に帰った方が良いじゃないか。どうせ、明日も朝早くから鍛錬するのだから」

「明日も朝から鍛錬するのですか?」



(宮廷魔法師団が来るまでの間、たった2人で魔物討伐をしていたのだから、心身共に随分とお疲れだと思っていたのに……明日もいつもの時間に鍛錬をするつもりなの!?)



「あ、あぁ……俺は最初からそのつもりだが」

「ですが、先程の魔物討伐で随分とお疲れでは?」

「確かに、宮廷魔法師団が来るまでたった2人で大勢の魔物を相手にしていたから、いつも以上に疲れてはいる」

「でしたら……」

「だが、寝れば疲れなんて取れる。それに、第二騎士団にいた頃は、魔物討伐をした翌日の仕事なんて日常茶飯事だったから慣れている」



(さすが、王国の国防を担う騎士様。平民や貴族と同じ物差しで考えていた自分がバカだったわ)


 メストの話を聞いて、己の認識の甘さを悔やむカミル。

 そんなカミルを見て、メストが慌てて言い繕う。



「も、もちろん、鍛錬はカミルが良かったらの話だ! 今回の魔物討伐で疲れているのは、カミルだって同じなのだから!」



 『自分の事ばかりで相手のことを気遣えていなかった!』と慌てるメストに、一瞬笑みを浮かべたカミルはすぐさま無表情に戻す。



「安心してください。私も寝れば回復しますので、明日の鍛錬に付き合っても問題ありませんよ」

「ほ、本当か?」

「えぇ」



 カミルの素っ気ない返事を聞いて、嬉しそうな笑みを浮かべたメストは小さく拳を上げる。


(フフッ、本当にあなたって方は……)


 すると、森の奥からステインが嘶き声を上げながら走ってきた。



「ステイン、お迎えありがとう」



(でも、今日だけはもう少し早く迎えに来て欲しかったわね)


 迎えに来てくれたステインに内心愚痴を零したカミルは、ステインにお礼を言うと彼の労をねぎらうように自慢の(たてがみ)を優しく撫でる。

 すると、カミルの隣で驚いた顔をしていたメストが優しく微笑む。



「カミルを迎えに来たのか。偉いな、お前」



 そう言って、ステインの馬体を優しく撫でるメストを横目で見たカミルは、そっとステインの手綱を握る。



「それでは、帰りましょうか」

「えっ? 乗らなくて良いのか? わざわざ迎えに来てくれたのに?」



(てっきり、ステインに乗るのかと思ったのだが)


 思わず眉を顰めるメストに、カミルは小さく首を横に振る。



「良いんです。今日はなぜだか、あなた様やステインと一緒に歩きたい気分ですので」

「そ、そうか。カミルがそう言うのなら」



 月明かりに照らされたカミルの横顔が、なぜか微笑んでいるように見えたメストは少しだけ胸が高鳴る。

 そんな彼をよそに、ステインの手綱を引いたカミルは再び森の中を歩き始める。



最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!


そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!

(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)


2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします


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