第161話 闇夜に紛れる黒幕
「そもそも、何の因果かこの場所にはお前の婚約者もいるだろうが。初対面の奴をお持ち帰りするより、そっちを構った方が良いんじゃないのか?」
一応、お前の婚約者なんだから。
「あぁ、メスト様?」
すると、ダリアがあからさまに嫌な顔をした。
「嫌よ。だって、今のメスト様、魔物の血で穢れていて近づきたくないし」
「お前なぁ……かれこれ半年も婚約者を放置しているだろうが。そんなことをしたら、婚約者からいつか怪しまれるじゃないのか?」
実は、お前が本当の婚約者では無いことを……
心の内でリアンが危惧していると、膨れっ面をしたダリアが兄に対して見下すような視線を向けてきた。
「そういうお兄様こそ、一応婚約者である第一王女様と上手くやっているの? 私や両親と違って、闇魔法が発現しなかったインベック家の落ちこぼれのくせに」
「っ!? 俺のことは良いんだよ! 俺のことは!」
痛いところを突かれたリアンは、ダリアに視線を戻すと少しだけ声を荒げた。
インベック家の長男であるリアンは、インベック家では珍しく闇魔法が発現しなかった。
そのため、妹や両親は事あるごとにリアンのことを『インベック家の落ちこぼれ』として、軽視したり見下したりしていた。
そんな彼は現在、父親であるノルベルトの政治の道具として第一王女の婚約者になっている。
チッ! せっかく、親父の闇魔法のお陰であいつから婚約者の地位を奪ったのに! 最近は、忙しさを理由に俺から避けやがって!
『私の知っているリアン様は、もっと騎士のように逞しくて、頼りになる方でしたよね?』
小首を傾げる婚約者のことを思い出して動揺しているリアンを見ても、一切興味が持てなかったダリアは、つまらなさそうに小さく鼻を鳴らした。
「まぁ、良いわ。飽きられて捨てられないよう、せいぜい頑張ることね」
「くっ!……だが、それはお前にも言えることだろうが」
「それは違うわ。『私が飽きられて捨てられる』じゃなくて『私が飽きて捨ててあげている』のよ」
自信に満ちた笑みを浮かべるダリアに、落ち着きを取り戻したリアンは小さく溜息をついた。
うちの妹は、母親譲りの整った顔立ちをしているのだが、性格は野心家しかいないインベック家らしい我儘で傲慢で自由奔放だ。
特に、見目麗しい男性を見つけたら、相手が婚約者持ちだろうが既婚者だろうが関係なく、自分のものにしようと何の躊躇いも無く魅了魔法を使う。
そして、飽きたら捨ててしまう。
そんな面食いの妹は、気晴らしに上級貴族しか行けない女性専用の高級娼館に遊びに行って、婚約者以外の男性と一夜の逢瀬を楽しんでいる。
「さてと、あの殿方はどこに行ったのかしら? あの殿方には、私たちの代わりに魔物討伐をしてくれたし」
「そうだったな。まぁ、お前が魅了魔法を使って、俺たちの代わりに魔物討伐をしてくれた宮廷魔法師は、あの男だけではなかったけどな」
「ウフフッ、そうだったかしら?」
己の欲求を満たすために、魅了魔法を使うダリアから目を背けたリアンは、酷く悔しそうな顔で小さく拳を握った。
俺にも、ダリアや両親のような闇魔法が使えれば、歴代最高の頭脳を持つこの俺がこの国の国王になってやるのに……
叶わない願望を心のうちに零したリアンは、気を落ち着かせるように小さく息を吐くと、得物を狙うような目で周りを見ているダリアに視線を戻した。
「それよりも、転移陣の方に行こう。宮廷魔法師達も引き上げの準備にかかっているから」
「そうね」
王都に戻った時のことを想像して満面の笑みを浮かべるダリアは、リアンの言葉に素直に頷くとフードを被り、転移陣のある方に向かって歩きだした。
そんなご機嫌な彼女に肩を竦めたリアンは、そっとカトレア達のいる方に目を向けた。
そう言えば、身分不相応なレイピアを持ったあの汚らわしい平民、この場所を立ち去る前に俺たちがいる方を見ていたな。
「まさか、遥か遠くにいる俺たちのことが見えて……」
「お兄様、早くしてください!」
「あっ、あぁ! 分かった」
逸る気持ちを抑え、宮廷魔法師団の合流地点に向かっている妹に急かされたリアンは、フードを深く被ると魔石回収で忙しい宮廷魔法師達の中に紛れた。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございます!
言っておきますが、インベック家にまともな奴は誰もいません。
全員、他人を見下すことに喜びを覚えていて、『誰もよりも一番自分が優れている!』と本気で思っている自己中で傲慢な最低な奴らです。
(まぁ、そう仕向けたのはインベック家当主の闇魔法なのですが)
そして、ブクマ・いいね・評価の方をよろしくお願いいたします!
(作者が泣いて喜びますし、モチベが爆上がりします!)
5/6 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします