第149話 水を差す
「つい先程、皆さんで話し合われていた『宮廷魔法師の王国全土の配置について』ですが……これは、宮廷魔法師団内の話し合いだけで決めるにはあまりにも大きすぎます! ですので、この一件は宰相家令嬢である私が預からせていただきます!」
「「「「「「っ!?」」」」」」
(あんた、いきなり会議に乱入してきたかと思えば、勝手に会議の結論を出すなんて……一体、何考えているの!?)
ダリアの横暴ぶりに、会議に参加していた宮廷魔法師達が困惑する中、会議室の後ろに座っていたカトレアは、満足げに笑うダリアを静かに睨みつける。
すると、ダリアの傍に立っていた人物の手が上がる。
「お待ちください」
そう言って、彼女の結論に待ったをかけたのは、他でもない宮廷魔法師団長ルベルだった。
「あら、宰相家令嬢の私がこの件を預かるって言うんだから文句はないでしょ?」
自信に満ち溢れた妖艶な笑みで小首を傾げるダリアに、僅かに眉を顰めたルベルがにこやかな笑顔で首を横に振る。
「畏れ多くも申し上げますが、この件は我々宮廷魔法師団の今後に関わる重要なもの。なれば、まずは宮廷魔法師団内で話し合ってある程度の方針を決め、そこから王国騎士団などの関係各所とすり合わせをし……」
「だ~か~ら~! あなた達のような魔法を扱うことしか出来ない人達が話し合って決めるには、この件は大きすぎるから、宰相家令嬢である私が一旦預かるって言っているんでしょ!」
侮蔑を含んだダリアの言葉に、周囲の宮廷魔法師がダリアに冷ややかな目を向ける中、笑みを潜めたルベルが静かに問い質す。
「そもそも、どうしてあなた様がここで会議が行われることや、会議で話す議題をご存じなのでしょうか?」
怒気を含んだルベルの問いに、カトレアは小さく頷く。
(そう、この会議室……というより、王城内にある部屋には全て、外から声が聞こえないように防音魔法がかけられている。つまり、外から来たダリアが、この場所で会議をすることも、会議で話し合われる議題が何か知っているわけ無い。それじゃあ、どうして彼女はその2つを知っていた?)
すると、笑みを深めたダリアがカトレアのいる方に視線を向ける。
「そんなの、カトレアの執務室で親友が戻ってくるのを待っている間に、彼女の机の上にあった書類を暇つぶしに見たからに決まっているじゃない!」
「っ!?」
(私が執務室に戻ってくる間にそんなことをしていたの!?)
愕然とするカトレアに、他の宮廷魔法師達が厳しい目を向けられる中、カトレアの方を見たルベルが静かに問い質す。
「カトレア、インベック公爵令嬢殿が言っていることは本当か?」
「あ、その……机の上に会議資料を置いたのは間違いありません。ですが、私が戻ってきた時、ダリ……インベック公爵令嬢様は優雅にお茶を楽しんでいらっしゃいましたし、書類も机の上にありました」
「つまり、インベック公爵令嬢殿が会議資料を見ているところをカトレア自身は見ていないということだな?」
「はい」
「当然よ。彼女が戻ってくる前に、読んでいた資料を全て侍女に綺麗に片づけさせたから」
他人様の仕事道具を勝手に触っても、何とも思っていないダリアの悪びれもしない態度に、眉間の皺を深くしたルベルはカトレアに視線を戻す。
「ちなみに、自分から資料を見せたというのは?」
「『宰相家令嬢』という権力を使われない限り、絶対にありえません」
「そうか、変なことを聞いて悪かった」
「いえ。こちらこそ、信頼を損ねるような真似をしてしまい、申し訳ありませんでした」
ルベルから謝罪された、カトレアは『信じてもらえた』と安堵しつつも、己の管理能力の甘さを悔やんで深々と頭を下げる。
(これは、後で団長から厳重注意よね。でもそもそも、部外者が暇つぶし感覚で他人様の机の上を物色した挙句、大事な会議資料を勝手に読むなんて信じられない)
宰相家令嬢とは思えないダリアの非常識な行動に、カトレアが沸々と怒りを覚えていると、笑みを深めたダリアがルベルに視線を向ける。
「でもまぁ、資料を見た時、魔法しか能のないあなた方が、無駄な話し合いで愚かな結論を出すことくらい分かっていたわ」
「……何が言いたいのですか? インベック公爵令嬢殿」
怒気を強めるルベルに、ダリアは見下すような目で会議室にいる宮廷魔法師達を一瞥すると小さく鼻を鳴らす。
「フン、あなた方のような魔法しか取り柄の無い人達が、政治的に重要なことを話し合ったところで、国に害を及ぼす結論しか出さないって言いたいのよ!」
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いします。