第133話 カミルの過去(前編)
「美味い!! さすが、カミルの作る料理だな!」
「ありがとうございます。ですが、そのハンバーグはご自身で形成して焼いたものですよ」
「そうだったな!」
自分で形成して焼いたハンバーグを美味しそうに食べるメストを見て、小さく笑みを浮かべたカミルはナイフとフォークで綺麗に切り分けたハンバーグをゆっくりと口の中に運ぶ。
すると、不思議そうに首を傾げているメストの視線に、気づいたカミルが声をかける。
「どうされました?」
「前々から思っていたが……カミルの食べ方は、貴族の俺から見てもとても上品だ。まるで、上位貴族の気品のある綺麗な食べ方だ」
「っ!?」
「それに、人と話す時の態度も平民のそれとは明らかに異なっている。何というか……話し方に品があって、物腰もとても丁寧なんだ」
『前々から気になっていた』と口にしたメストの疑問に、一瞬だけ顔を強張らせたカミルは持っていたナイフとフォークを強く握る。
(一緒にいる時間が長ければ長いほど、私が『ただの平民』なんて思わなくなるわよね)
俯いてゆっくりと溜息をついたカミルを見て、『傷つけてしまった!』と勘違いしたメストは、持っていたナイフとフォークを慌てて置くと深く頭を下げる。
「すまない! 俺が変なことを言ったせいで君を傷つけてしまった!」
「…………」
(本当、あなたって方は相変わらず誰に対しても紳士なのですね)
平民であるカミルに対し、『すまなかった』と頭を下げて心から謝罪するメスト。
そんな彼の誠実さに、僅かに笑みを浮かべたカミルはいつもの無表情に戻すと、持っていたナイフとフォークを静かに置く。
「いえ、あなた様が私の言動や行動に疑問を持っても致し方ないと思います。なにせ、こうして一緒にいる時間が増えたことで、お互いを知る時間が増えたのですから」
「カミル?」
(そろそろ、私がただの平民出ないということ彼に知ってもらおう)
恐る恐る顔を上げたメストに、意を決したカミルがテーブルの上で静かに両手を組む。
「私の弟子を名乗っていらっしゃるあなた様に私のことを話しましょう」
(でも、本当のことは教えない。彼を危険に巻き込むようなことはしたくないから)
「本当に、良いのか?」
「はい。ですが一先ず、晩御飯を食べて終え、お風呂に入ってからにしましょう。どちらも冷めないうちに済ませたいので」
「そ、そうだな」
そうして、いつも通り夕食を完食し、お風呂を済ませた2人は、マグカップを持ち寄って再びテーブルにつく。
そして、ゆっくりと息を吐いたカミルは、偽りの半生をメストに話し始める。
◇◇◇◇◇
「私は元々、どこかの国の孤児院にいました」
「どこかの国の孤児院?」
首を傾げるメストに、カミルは小さく頷く。
「はい。この国にはなぜか孤児院がないみたいですし、物心ついた時には既に孤児院を離れていましたから。なので、私が一体どこの国で生まれたなのか、両親が誰なのか、どこの国の孤児院で育ったのか分からないのです」
「そう、なのか」
ペトロート王国では、宰相閣下の意向で移民や孤児と呼ばれる者達の入国を一切認めないし受け入れない。
そのため、この国には孤児院と呼ばれるものは存在しない。
また、この国で孤児になった子ども達は、誰かに拾われるか捨てられて息絶えるか、王国に潜り込んでいる奴隷商に売られるか運よく隣国の国境近くにある孤児院へ逃げ込むかの悲惨な選択肢を迫られる。
(カミルは、運よく孤児院に預けられたのだろう)
カミルが孤児院育ちであると知り、少しだけ苦い顔をしたメストはホットコーヒーを飲み、沸々と湧き上がる怒りを鎮めさせる。
「だが、『物心ついた頃には孤児院を離れていた』ってことは、孤児院にいたカミルを誰かが引き取ったのか?」
「はい。これは私を引き取ってくれた人から聞いた話なのですが……主の使いとしてとあるお貴族様の屋敷に向かっている途中、偶然孤児院の前を通りがかったそうです。その時に、外で他の子達と楽しく遊んでいた私を見て驚き、慌てて引き取ったそうです」
「『主の使いとしてとあるお貴族様の屋敷に向かっている途中』か……」
(話からして、カミルを引き取った人物は間違いなくどこかの貴族に仕える使用人だろう)
「だが、どうしてその人は慌ててカミルを引き取ったんだ?」
「何でも、私が平民とは思えないくらいの魔力量を持っているのを一瞬で見抜いたらしく、院長に『その子は膨大な魔力を有していて、将来的にうちの使用人として働いて欲しいので是非とも引き取らせて欲しい! もちろん悪いようにはしない!』とその場で懇願したそうです」
「なるほどなぁ」
(ということは、その使用人は間違いなくどこかの貴族の家の出身なのだろう。なにせ、膨大な魔力を持つ貴族には、他人の魔力量を見ることが出来るのだから。となると、膨大な魔力を持つカミルは、実はどこかの貴族家の子息だったのだろうか?)
「あの、騎士様? そんなにまじまじと私のことを見つめてどうされたのですか?」
「い、いや……ただ、もしかすると、カミルはどこかの貴族の生まれなのかもしれないな」
「……そう、なのかもしれませんね」
「カミル、どうした?」
僅かに陰りのある表情をしたカミルは、小さく咳払いをして表情を戻すと話を続ける。
「いえ、何でも。それで、私を引き取ってくれた方はどこかの大貴族の執事だったらしく、私のことを引き取らせてくれたら、孤児院に多額の寄付金をすると約束しました。すると、目の色を変えた院長があっさりと了承したのです」
「まぁ、そうなるだろうな」
(なにせ、孤児院の運営は貴族の寄付によって成り立っている。だから、降って湧いた多額の寄付金は、孤児院としては大変ありがたいことだ。その上で、孤児も引き取ってくれるのだから、孤児院として了承する以外の選択肢はないだろう)
孤児院を運営する院長の素早い対応に思わず苦笑したメストに対し、無表情のカミルはゆっくりと視線をマグカップに落とす。
「そして、私は多額の寄付金を引き換えにその人に引き取られたのですが……私が使用人として大貴族の家に働き始めて数年後、その大貴族の家が瞬く間に没落したのです」
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2/12 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。