第115話 貴族という人間
店主がメストに鋭い目線を向ける中、小さく肩を竦めたカミルが否定するように首を横に振る。
「さぁ、それはどうでしょう? 単に今日だけ彼女との都合がつかず、暇つぶしがてら私のところに来ているだけかもしれませんし」
「た、確かに」
少しだけ引き攣った顔をする店主をよそに、カミルは少しだけ悲しそうな目でメストを見つめる。
「それに、お貴族様の事情は私たち平民では理解出来ない程、複雑なものみたいですから」
「というと?」
メストから視線を逸らしたカミルは、背後にあった商品棚から透明な魔石を2つ手に取る。
「お貴族様同士の結婚は、家の繁栄を重視しています。特に、生まれてくる子どもの性別が、その家の今後に影響してきます」
「そうなのか?」
「はい。『男の子なら家の跡取り、女の子なら他のお貴族様か王族のどなたかに嫁がせる』みたいな」
「なんだ、その道具みたいな扱いは? 子どもがかわいそうじゃねぇか」
「そうですね。でもそれが、家の繫栄を重視しているお貴族様同士の結婚なんです」
(あと、家格とか生まれてくる順番とか魔力の才能とか色々あるんだけど……まぁ、これが言わなくても良いわね。ややこしくなるだけだし)
貴族の結婚事情を聞いて心底呆れ顔の店主に、魔石を商品棚に戻したカミルは話を続ける。
「ですので、自分の後継を作らせるためなら、正妻に内緒でお気に入りの娼婦に自分の子を作らせる方もいるみたいですよ」
「うげっ! そうなのか!? そんな下衆なことがお貴族様の間で行われているのかよ。そう考えると、お貴族様って俺たちの平民にとってはクズの集団としか思えないな!」
カミルの話を聞いて、店主が貴族を愚弄した瞬間、店内に何かが床に落ちる音が響き渡る。
思ったより大きい音に驚いた2人が慌てて振り向くと、そこには歪んだ表情で魔石を落とした床を見つめるメストがいた。
すると、何かを察した店主が顔を青ざめさせるとメストに向かって頭を下げる。
「す、すまん! お貴族様のことやお前さんのことを良くも知らねぇ奴が、勝手に悪く言う資格なんてねぇよな!」
現役冒険者とは思えない、恐怖でプルプルと肩を震わせる店主を見て、落とした魔石を拾ったメストは苦笑すると店主とカミルに対して静かに首を横に振る。
「良いんです。貴族の中にクズな奴がいるのは間違いありません。ですから、そう思われても仕方ないことです」
「兄ちゃん……」
申し訳なさそうな表情で顔を上げた店主に、メストは持っていた魔石を商品棚に戻すと店主に声をかける。
「それよりも、魔石選びの方は終わりましたか? よろしければ、買い物かごだけ私が持ちましょうか? 今更な申し出ですみませんが」
「いや、もう少しで終わるから大丈夫だ。兄ちゃんは店内を見て回ってくれ」
「分かりました」
店主を気遣うように柔らかく笑うメストを、カミルは無表情のままどこか遠い目で見つめた。
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2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。