第109話 王都の門で
カミルがメストのことを『さん付け』で呼ぶことを決めてから、他愛もない会話をしていた2人の前に王都へ入るための門が見えてきた。
「王都の門が見えてきましたね」
「そう、だ、な……って、あっ!!」
「どうされました?」
検問を受けるため、幌馬車が門の中の検問所の前に出来た列の後ろに止まった瞬間、何かを思い出して声を上げたメストの顔が急に青ざめる。
「な、なぁ……検問があるってことは、必ず本人確認がされるってことだよな?」
「えぇ、そうですね」
「だ、だとしたら、俺の正体も……」
(この時のために、わざわざベレー帽やアイマスクを用意したのに!!)
仕事の一環で王都の検問をしたことがあるメストは、検問をやる際は王都を訪れた人間が怪しい人物か確かめるために、必ず本人確認をすることを知っていた。
だから、メストはこれから訪れる最悪な未来に、普段の凛とした態度から想像出来ないくらい1人勝手に慌てていた。
そんな彼を横目で見たカミルは、『何だ、そんなことか』と言わんばかりに深く溜息をつく。
「それなら大丈夫ですよ。これがありますから」
「これって……通行許可書?」
「はい。これさえあれば、簡単に王都に入ることが出来ます」
慣れたようにカミルが懐から取り出したのは、王都へ入るために必要な通行許可証で、亡き恩人から受け継いだ物の1つである。
「だが、ここにあるのは一枚だけ。つまり、カミルだけが王都に入ることを許されるんじゃないのか?」
(そうなれば、俺だけ門番に止められて仕方なく正体を明かし、事態をややこしくさせる上に、カミルにも迷惑をかけるかもしれない!!)
再び顔を青ざめたメストに対し、カミルは小さく首を横に振る。
「いえ、門番が知りたいのは通行許可書を持っていることと王都に来た目的です。だから、あなた様が村の時と同じように、手綱を握って大人しく座っていれば王都に入ることが出来ます」
「そうなのか?」
「えぇ。それに、万が一あなた様のことを聞かれたら、『今日から手伝いで来るようになった私の親戚』って答えます。そしたら、門番も納得して王都に入ることを許してくれます」
「そんなでたらめなことで門番が納得出来るのか? 本人確認でもされたら……」
「大丈夫です」
「本当か?」
(そんな取って付けたような設定で……そもそも、通行許可書と目的だけ聞いただけで王都に入れるものなのか?)
半ば信じられないような顔で見つめるメストに、きっぱりと言い切ったカミルはそっと視線を前に戻す。
「まぁ、見ていれば分かります」
「そ、そうか……」
カミルの話を聞いても尚、イマイチ信じられないにメストは不安になりながら視線を前に向ける。
すると、門番を担当している騎士達の仕事ぶりを遠目で見えて、メストは思わず言葉を失う。
(あいつら、本当に通行許可書と目的だけ聞いて、ろくに本人や荷台の中身を確認しないまま王都に入れている! 万が一、隣国のスパイや賊が入ったらどうするんだ!?)
「確か、門番は第一騎士団の……」
「あの?」
不思議そうに小首を傾げているカミルをよそに、メストは険しい顔をしながら『門番役の杜撰な仕事ぶりをどのタイミングで上司に報告するべきか』と休み明けの仕事のスケジュールを頭の中で組み立てていた。
すると、門番役の騎士がカミル達の乗った幌馬車を呼んだ。
(来たか、どうか俺だとバレないように)
カミルから言われた通り、手綱を預かったメストは門番達に顔を見られないように顔を俯かせる。
そんな彼を一瞥したカミルは、視線を門番に戻すと持っていた通行許可書を見せる。
「王都に来た目的は?」
「行商です」
「行商か……貴族と違って平民は忙しそうだな」
「なにっ!?」
(こいつ、平民というだけで何という態度を……!!)
門番の横柄な態度に怒りを覚えたメストは、顔を上げると門番に詰め寄ろうと御者台から立ち上がろうとした。
だが、それに気づいたカミルが咄嗟にメストの腕を掴む。
「何をするカミル! こいつは、君のことを……!」
鬼の形相で睨みつけてくるメストに、カミルはそっとメストの耳元に顔を寄せる。
「落ち着いてください。今のあなたは平民です。ここで揉め事を起こしたら、面倒なことになることくらい、あなたでも分かるでしょ?」
「っ!?」
(そうだ、今の俺は平民だ。ここで揉め事を起こせば、俺はまだしもカミルの立場が……)
カミルに諫められ、頭が冷えたメストは、項垂れるように座ると悔しさを滲ませるように手綱を強く握る。
「おい、揉め事は終わったか? こっちも暇じゃないんでな!」
「くっ!」
心底面倒くさそうな顔をする門番に、メストが鋭い目を向けようとしたがカミルの華奢な背中がそれを阻む。
そして、カミルは門番に向かって深々と頭を下げる。
「申し訳ございません。今、終わりました」
「ハッ、揉め事はよそでやれよ。なにせここは、宰相閣下が治めている王都の玄関口なのだから!」
「……分かっています。それで、王都に入ってもよろしいでしょうか?」
「良いぞ、通ってよし!」
平民に頭を下げられ、気を良くした門番は、横柄な態度のままカミル達に王都へ入る許可を出す。
そんな騎士の態度を目の当たりし、メストは悔しさを堪えるように奥歯を強く噛み締める。
対して、カミルは小さく溜息をつくと彼から手綱を返してもらい、さっさと幌馬車を走らせた。
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2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。