第108話 メストさん
落ち込んだように肩を落としながら申し訳なさそうな顔で俯いたメストを見て、カミルは呆れたように溜息をつく。
(全く、そんな顔をするのなら、わざわざ私と同じ格好なんてしなくてもいいのに。でもまぁ……)
「とはいえ、それであなた様が私の仕事を手伝ってくれるのならば構いません。ご丁寧に、護身用の片手剣も携えているようですし」
「気づいていたのか?」
「当然です。いつ取りに行ったのか知りませんが、村を出る時に気づきました」
「そ、そうか」
(実は、森を出る前に収納魔法が付与されたブレスレットからベレー帽とアイマスクと一緒に出したんだよな)
メストが護身用として腰に携えている剣は、メストがわざわざ実家から持ってきた鍛錬用の剣で、実はカミルが悪徳騎士と対峙した時に助太刀出来るように備えて持ってきたのだ。
使い慣れて剣の鞘を持ち、小さく笑みを浮かべたメストは、ふと自分の格好を見て何かを思い出す。
(そうだ、平民の格好をしているのだから今なら……!)
小さく笑みを浮かべたメストは、ずっと前から胸に秘めていた願望をカミルに吐露する。
「なぁ、カミル。そろそろ、俺のことを『メスト』って呼んでくれないか? あと、俺に対してタメ口で話してくれないか?」
◇◇◇◇◇
「はい!?」
(いきなり何を言っているの!?)
メストからの突然にお願いに、驚いたカミルはステインの足を止めさせるとメストに向かって思い切り眉を顰める。
「名前に関しては追々呼ばせていただくと前に申し上げたではありませんか」
(そもそも、私がメスト様のこと『メスト』なんて呼び捨てになんて……で、出来るはずがない!)
弟子入りの際、メストから名前呼びを提案されたカミルは困惑しつつも丁重に断った。
だが今、あの時の同じような提案をされて、カミルは無表情を保ちつつも心の中で羞恥と戦っていた。
「まぁ、そうなんだが……でもこれから王都に行くんだろ? それに今の俺は、カミルと同じ平民の格好をしている」
「そうですね」
「だから、いつものようにカミルが俺に対して『あなた様』って呼んでいるところを他の平民や貴族に聞かれたら、俺の正体がバレるかもしれないし、何かと面倒なことになるかもしれない。俺としては、それは絶対に避けたい」
「うっ!」
(確かに、平民が平民に対して『あなた様』と呼ぶのはあまりにも不自然。それに、これから行く場所は人の多い王都。誰に聞かれてもおかしくはないし、万が一聞かれでもしたら確実に面倒なことに……ハッ! もしかして、メスト様は私に名前呼びをさせたくてわざわざ平民の格好をしたの!?)
申し訳ない顔をしながらも期待の眼差しを向けるメストに、少しだけ苛立ちを覚えたカミルは、気持ちを落ち着けるように深呼吸をして考えを巡らせる。
そして、カミルは今出来る妥協案を導き出して、それをメストに提示した。
「でしたら、あなた様のことを『メストさん』と呼びます。その方が、私より年上のあなた様を呼ぶ時に何ら不自然ではありませんし、敬語で話しても問題ありません」
「わ、分かった……メストさん、な」
「はい。これ以上は妥協出来ません」
きっぱりと言い切ったカミルに、メストは内心で舌打ちをしつつ小さく頷く。
(チッ、本当は呼び捨てで呼んで欲しかったし、タメ口で話して欲しかったが……まぁ、カミルの言い分が最もだから仕方ない。でもまぁ、ようやくカミルに名前で呼んでもらえる!)
「どうしましたか……メ、メスト、さ、さん?」
「カミル? 俺の名前、そんなに言いづらかったか?」
「い、いえ……」
(言えるわけない! 本当は『久しぶりにあなたの名前を『さん付け』で呼ぶから、ものすごく緊張している』なんて!)
顔を逸らして僅かに頬を赤らめているカミルとは反対に、メストは不思議そうに首を傾げる。
「それにしても、カミルはどうして俺が自分より年上って分かった? 俺、カミルに歳を言ったことがあったか?」
(と言う俺も、カミルの歳は知らないのだが)
「いえ、何となくそう思ったのですが……違いました?」
「いや、カミルの歳を知らないから分からない」
(そうよね。でも、年齢を言ったら正体がバレそうになるだから言わないけど)
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2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。