第104話 リアスタ村へ
ステインにご飯をあげたメストは、家に戻るとお風呂に入って仕事で掻いた汗を綺麗さっぱりに洗い流し、その間にカミルが昼食の準備をする。
そして、メストと入れ違いでお風呂に入ったカミルは、メストがお風呂から上がる前に作り終えてテーブルに並べた昼食をメストと一緒に食べる。
その後、手早く片付けたカミルはメストと共に午後の仕事に取り掛かる。
「では、あなた様には、本日の納品分の木材を倉庫隣にある荷台の中に運び入れてもらいます。その間、私はステインを連れてきます。よろしいですか?」
「分かった。カミルが作ってくれた美味しい昼食を食べたお陰でいくらでも運べる!」
自信満々な笑みを浮かべたメストは、カミルの指示に従って王都の得意先に納品する木材を荷台の中へ次々と運び込んでいく。
(さすが騎士様。私でも『強化』の効果が付与されたグローブをつけないと持てない木材を、あんな軽々と持ち上げて倉庫から運び出すなんて)
「ん? カミル、どうした?」
「いえ、何でもありません」
お風呂から上がった時に着替えた白いシャツの袖を腕まで捲り上げ、重い木材を倉庫から荷台へ運ぶメストの姿に、一瞬見惚れていたカミルは邪念を振り払うように首を横に振ると足早に馬小屋に向かった。
◇◇◇◇◇
「お疲れ様です。木材の運び入れは終わりましたか?」
「あぁ、これで最後だ!」
そう言って、最後の木材を荷台へ運び入れたメストに、無表情のカミルは一瞬目を見張る。
「さすが、騎士様ですね。馬小屋から連れ出したステインと荷台を繋げ終わったタイミングで仕事を終えてしまうなんて」
「まぁ、これでも一応近衛騎士だからな。これくらいどうってこともない。それに、カミルの適切な指示のお陰でスムーズに出来た」
「いえ、たいした指示は何も……」
頬に感じる熱を逃がすように軽く咳払いしたカミルは、逸らしていた視線を両肩を軽く回しているメストに戻した。
「それでは今から、御者台に乗って王都に行きましょう……と言いたいところですが、その前に寄るところがありますので、まずはそちらに向かいます」
「寄るところ?」
(王都へ行く前に寄るところがあるのか)
眉を顰めながら小首を傾げるメストに、カミルはほんの少しだけ苦笑する。
「えぇ、正確には『寄らざるをえない』と言った方が良いですが」
「寄らざるをえないところ? 一体どこなんだ?」
「ここから一番近い村……リアスタ村に寄るんです」
「はっ?」
(どうして、王都に行く途中でリアスタ村に……あっ)
更に眉を顰めたメストの脳裏に、初めてリアスタ村に来た時のことが過った。
『そんなの、お前がいつものように王都まで運んで、得意先に売って金にしてくればいい』
『野菜を王都に運ぶ?』
『あぁ、あんたらは知らないと思うが、つい最近リアスタ村に『幌馬車』という移動手段が手に入ったんです。それで、俺たちはそれを使って王都の店に村の特産品を卸して金を得ているんです。幌馬車を使えば王都までは1時間ぐらいで着きますから』
『そうだったんですね。それでしたら、今から行っても十分間に合いますね』
「もしかして、村人達が作った分を持っていくからか?」
「よく覚えていましたね」
「そう、だな……『リアスタ村』という名前を聞いて思い出した」
(それに、あれは忘れたくても忘れられない出来事だった)
約1ヶ月前のことを思い出したメストを見て、一瞬だけ驚いた表情したカミルは再び苦笑する。
「まぁ、それもあるのですが……実は、それだけではないのです」
「どういうことだ?」
「それは、行けば分かります」
そう言って、颯爽と御者台に乗ったカミルは、眉間の皺を深くするメストに目を向ける。
「一先ず、御者台に乗ってください。長く待たせてしまっては、面倒なことになりますから」
「あ、あぁ……分かった」
(『長く待たせると面倒になる』? 一体、どういうことなんだ?)
カミルに急かされ、メストは釈然としない気持ちのまま御者台に乗るとそのままカミルの隣に座った。
(ち、近い!)
隣に座ってきたメストをいつもの無表情で迎えたカミルだったが、肩が触れ合うくらいのメストとの距離に内心穏やかではなかった。
すると、何かを思い出したメストがカミルに背を向けると、ポケットの中から何かを取り出して身につけ始める。
「あの、どうされました?」
「ちょっと待ってくれ……ほら、どうだ? 似合っているか?」
「っ!?」
はにかんだ笑顔でこちらを見てくれたメストの頭にはベレー帽が、顔にはアイマスクを付けられていた。
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2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。