閑話 ぼくのともだち?
「ということで、よろしく! ステイン君!」
誰、この人間?
突然僕の住処に来たと思いきや、いきなり馴れ馴れしいことを言い始めた人間に対して、一瞬呆気に取られた僕は悪くないと思う。
すると、僕が戸惑っている様子に気づいたのだろう、僕の目の前にいる人間は、途端に申し訳なさそうな笑みを浮かべると小さく頭を下げた。
「あぁ、すまない。まずは、君にちゃんと挨拶をしないといけないんだった。君のことは、王都で何度も見かけているから俺のことはすっかり知っているものだと思った。それに、君の主に君のことを頼まれたから、つい嬉しくなって砕けた挨拶になってしまった。本当にすまない」
再び小さく頭を下げた人間の顔を見た僕は、ようやくこの人間のことを思い出した。
あぁ、昨夜、主が迎えに行った人間だ。確か、名前は……
そんな僕に向かって、人間の男は姿勢を正して右手を左胸に当てると、小さく笑みを浮かべながら今度は深々と頭を下げた。
「では、改めて……初めまして。俺の名前は、メスト・ヴィルマン。君の主の弟子だ。これから、定期的にこの場所を訪れることになるから、出来れば俺とも仲良くして欲しい」
優しい笑みでご丁寧に律儀な挨拶する人間……メストを見て、何故だが僕は、初めてエドガスと出会った時のことを思い出した。
『初めまして。私の名前は、エドガス。森で行き倒れていた君を助けた人間です。いきなりですが、君は今日からこの屋敷の一員になりました。ですから、出来れば私と仲良くしてくれると嬉しいです』
そう言って、エドガスもメストと同じように、馬である僕に向かって恭しく頭を下げた。でも、僕の記憶が正しければ……確か、メストとはあの屋敷で会っていたから、初めましてではないはず。
そんな昔のことを思い出して久しぶりに会ったメストをまじまじと見ていると、静かに頭を上げたメストは、僕と目を合わせると再び申し訳なさそうな笑みを浮かべた。
「って、いきなり言っても戸惑うよな。ごめん。でも、少しずつでもいいから君と……ステイン君と仲良くなりたいのは本心だ」
うん、それは君がエドガスと同じ挨拶をしたから十分伝わったよ。
僕が機嫌よく嘶くと、一瞬目を見開いたメストは心の底から安堵するように微笑んだ。
「どうやら、俺のことは『仲良くしても良い人間』って思われたみたいだ。良かった」
すると、僕を見て何かに気づいたメストは、近くにあった道具を手に取ると何の躊躇いも無く僕の寝床に入ってきた。
なっ、何!?
驚く僕に、メストはまた小さく頭を下げた。
「突然、君の寝床に勝手に入ってしまってすまない。だが、君の体についている汚れがどうしても気になって……もし、君が良いのなら毛繕いをしてもいいか?」
それなら、別に良いけど……でも森の近くにある湖で水浴びしているから、わざわざ毛繕いしなくても大丈夫だと思うんだけど。
『良いよ』という返事の代わりに短く嘶いた僕に、メストは『ありがとう』とお礼を言うと持っていた道具を使って毛繕いをし始めた。
「ほら、やっぱり。いくら君が湖の水で身綺麗にしていても、こういうところは汚れが貯まりやすいんだから、綺麗にしてあげないといけないんだぞ。君の主だって、同じことを言ってないか?」
そう口にしつつも、メストは優しい手つきで僕の体を丁寧に撫でていく。
それにしても、メストがしてくれる毛繕い気持ちいい! いつも僕がお昼ご飯を食べている間に主がやってくれるけど、その時と同じくらい気持ちいい!
メスト、僕の体を撫でるのは初めてのはずなのに……
夢見心地になりつつも不思議に思った僕は、一生懸命毛繕いをしてくれているメストのことを凝視した。
すると、僕の視線に気づいたメストが再び小さく笑みを浮かべた。
「実は俺、この国の騎士をしていて、仕事の一環で相棒の馬の世話を毎日している。だから、君が今どんな状態なのか手に取るように分かるんだ」
なるほど、メストにも僕のような主に使える馬がいるってことか。
「でもまぁ、君の気持ちよさそうな顔を見る限り、俺がする毛繕いはステイン君のお気に召したようだな」
身を委ねるように目を閉じた僕を見て、メストは嬉しそうに笑った。そして、主がご飯を持ってくるまで、メストは僕の体を隅々まで毛繕いをしてくれた。
「ステインが初めて会う人間に対してここまで心を開くなんて……一体、何をされたのですか?」
「いや、ただ毛繕いをしてあげただけだが……なぁ、ステイン?」
不思議そうに首を傾げる主と、得意げな笑みを浮かべるメストに、僕は上機嫌に嘶いた。
とりあえず、僕はメストとは『友達』ってやつになっても良いかなと思った。
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2/11 大幅な修正をしました。よろしくお願いいたします。