絵描き
六月、第三週の月曜日。
文化祭の準備はなんのイベントもなく進み続けた。大方の方向性が決めた一週間。その後七月中旬の開催へ向け、クラスの皆に仕事が割り振られた。
活動は主には放課後居残りで一時間弱の作業。一日あたりで見れば長くはない。そして、毎日居残りするわけでもない。もう三年生であり、居残りがある日も強制じゃない。
現在の参加率は三分の二程度。
俺は大概参加している。しなければ悠介に引っ張り出されるから実質強制だ。
別に嫌ではない上――
「白が切れたから取って来るわ」
同じ作業をやっているのは見知った仲である木藤だ。それと、もう一人の女子。そっちはなんていったか。主に塾が忙しいらしく基本的に居残りしていないので会話がない。
名前を覚えようとも思えない。
ともかく、実質二人でやっているのは立て看板をペンキで塗ること。
下書きは美術部のクラスメイトがやってくれた。基本的にはみ出さないように塗るだけ。極論小学生の塗り絵だ。時間はかかるが、難しくはない。難しい箇所はその美術部の子を呼べばいい。今は別の作業に駆り出されているのでこの場にはいないが。
「ん」
雑な返事を返して作業を続ける。図書委員の活動は樫原先生が休止にしたせいでない。
木藤が文化祭の準備に取り組んでいることから、休止の理由事態は想像がつく。
想像には過ぎないけれど、樫原先生に言われなければ木藤も今いない女子と同じようにどこかで勉強に勤しんでいただろう。
だらだらと作業を続けながら、じわりとかいた汗を服で拭う。
ペンキ作業は中庭でしか許されていない。そのため、槍の如き直射日光をビシバシ浴びている。日焼け止めを塗っている人も良く見かけた。
またペンキ作業なので、汚れてもいい服装、当然制服は危険なので体操服だ。
体育がある日は汗臭くなったものを着るのは憚られる。その時は別のシャツやら予備の体操服やらでどうにかしていた。
うちの喫茶店の方向性はラブリーになったこともあり、立て看板の絵はハートで飾られている。ピンク一色はだめらしいので、事前に決めた色をぱしゃりぱしゃりと塗っていく。
細かいのは苦手だ。はなから細筆やらは持たず、刷毛とローラーでざっくばらんに。小学生の塗り絵すら満足にできないのかという文句は受け付けていない。
逆に木藤は細かい作業が得意らしく、俺が塗り残した後を丁寧に補修している。彼女の作業後は大部分を自分で塗っているはずなのにそれを感じられない。
情けない気もしたが、適材適所と諦めてほうと一息ついた。
「もう休憩しているの?」
「……いーや? かなり塗れてきたかなって」
「……そう」
整ったまつ毛、そこから覗く胡乱気な目にたじろぐ。
「本当だって」
「……」
返事はない。かわりに足を揃え、綺麗に正座する。まったく力まず細筆で補修を再開した。口より手を動かせとでも言っているのか。しかし交友を持たない人に言われるのは癪――言葉にはされてないな。
「……この分だと後どのくらいかかりそうなんだ?」
ここしばらくそうしてきたように、作業について話す。
「貴方の速度次第。このペースなら納期には間に合う」
「納期って……」
そんな仕事みたいに……いや、仕事なんだけどさ。まだ俺ら一応学生だし……。
期限は七月の初週まで。時間は十分にあるが、それ以降はペンキ作業が禁止される。何かしら修正するなどリカバリーするには早めに仕上げておきたいらしい。
「使い方が間違っていると?」
「そういう意味じゃない」
「そう」
お互い見向きもせずに会話する。手に届く範囲を終えた木藤が場所を移動し、俺の向かい側に来た。絵で言うと上側だ。
その辺りは風船が密集している絵があり、かなりの細かさで投げ出してしまっている。当然木藤の仕事も増える。申し訳なさはあるものの、どうすればいいかも分からない。
「あー……。何か手伝えることは?」
風船の絵に取り掛かった木藤に尋ねる。
「自分の仕事を終えてから聞いて頂戴」
「……おっしゃる通りで」
まだ空白地帯は多い。人のことを手伝う前に、自分のことを終わらせなければならないのは当然だ。
引き続き、自分の作業に戻る。ペンキ作業で大変なのは輪郭だ。刷毛やらローラーを使えば広い面積をすぐに塗れる。だが、物同士の境界線を際立たせるのが難しい。
今回は縁を細筆で黒く塗っている。緻密な作業にも拘わらず、木藤の腕は震えていない。ゆっくりなのに滑らかだ。こういう作業が得意なのか尋ねると、「嫌いではないわ」とのこと。
足を引っ張っているようで申し訳なくなる。誰でも出来るような作業しかできないことに失望されないか恐れている自分にも苛立つ。
自分の作業に集中し、余計な感情を押しとどめる。
黙々とやれる作業は余計な考えを消してくれるから好きだ。中途半端に考えられる余裕はむしろ邪魔になる。バイトも接客よりかは淡々とこなす作業の方が好きだった。
木藤はどうだろうか。
ふと思い、ちらりと目だけを向ける。
「……ッ」
体操服の胸元、肩に伸びた紐らしきものが見えてしまった。本来なら見えるはずもないが、体育が無かったが故だろう。
それが何かを一瞬で察し、顔をより下げて目を逸らす。信用を失う真似はしたくなかった。
「……どうかしたの?」
彼女が不自然な挙動の俺を見て、首を傾げた。気付いていないのは幸い……だと思う。
「ちょっと……転びそうに」
「そう」
興味を失ったのか、木藤がまた作業に戻る。
俺も増えてしまった余計な感情を消すため、作業を進めた。
「そろそろ五時だぞ」
ぽつぽつと帰ってく人や部活に向かう人を見て、時間を確認すると五時になっていた。
スマホのアラームが鳴りだしたのを聞いて、木藤にも呼び掛けた。
「これが終わったら辞めるわ」
風船の集合は半分ほど片付いていた。虹をイメージした七種七色の内、三種がペンキらしい重い質感を放っている。
離れて全体を見渡す。俺の方はだいたい片付いており、あとは細かいところのみ。
「ん。じゃあ、洗えるものは洗ってくる」
そう言い残し、刷毛やらローラーやらをまとめて立ち上がる。えっちらおっちら落とさないように抱えて水道へと向かうと、見慣れた茶髪の男子を見つけて、隣に立った。
「順調?」
「……なんだ蓮か。あぁ、順調だと思うぜ」
顔を持ち上げちらりとこちらを見た悠介の顔はやつれて見えた。
悠介は教室で飾りものを作っていたはず。ペンキ作業は少ないので疲れるような要素はないと思ったのだが。
「……疲れてそうだけど」
「あー……」
声を詰まらせた悠介が何かを言い淀む。
口にしていいか迷っているらしい。軽薄そうに見えて彼は人の陰口をあまり言わない。言い淀むということはクラスで何かあり、それは誰かのせいなのだろう。
彼の判断にまかせ、器具を洗いながら続きを待つ。
水音と器具の音だけが響く。もう大半の人は作業を止めていたため、水道には俺と悠介の二人しかいなかった。
「……オープニングセレモニー、あるだろ?」
「うん」
開会式に行うクラスごとの簡単な宣伝だ。宣伝と言っても、実際はダンスやらなんやらネタを披露する時間と化している。
「あれで、ダンスをやりたいって言ったやつが居てさ。作業のメンバーがそっちに持ってかれた。塾を言い訳にサボってるやつも多いから人が足りねぇ」
どうやら外れを引かされたらしい。律儀に作業を続ける悠介もらしいと思った。
「あれ、一クラス一分ぐらいじゃ? 練習そんなにいらないと思うけど」
「ああそうだよ。なんならどんなダンスをするかで時間使ってる。使った時間の割に進んでないし、雑談ばっかよ。作業がめんどくさいのバレバレ」
珍しい愚痴の吐きっぷりに苦笑が漏れた。
愚痴を吐くというのは相手に信頼がないと出来ない行為だ。相手に吐いた愚痴を漏らされてしまえば立場が悪くなるが故に。
仲がいいことをこれで実感するのだから、つくづく自分は──と自嘲する。
「まあ、俺の所も一人塾で来てないからなぁ」
「そっちは立て看板だよな。順調か?」
「かな。木藤が細かいところやってくれてる。俺は雑用ってか大雑把に塗るだけ」
「仕事してるだけマシだろ。……水道に来てねぇけど、先帰った?」
「いいや、最後に一つやりたいってさ」
「そりゃまた勤勉なことで。」
そういいながらも、悠介の顔はにやけている。
彼の言いたいことを察し、すっと目を細める。狙いを定めて刷毛で水流を弾き飛ばし、水をかけてやった。
「冷てっ! まだなんも言ってねぇよ!」
「顔が言ってんだよ顔が」
「で、実際どうなんだ? 実質二人で作業してんだろ?」
「まぁ、そう。でも、何も起きてないよ。何も」
当たり前のようにそう言うと、悠介はわざとらしく肩をすくめた。
「全く、つまんねぇ野郎だな。見た目が悪い訳でもないのに、そんな振る舞いだから彼女が出来ねぇんだろ?」
「いいんだよ、これで」
情けないなど百も承知で。
傷付くぐらいならばこれで良いと思っている、
動かなければ誰も傷つかないのだ。プラスマイナスゼロ。悪くない言葉のはず。
「……一つ言っておく」
諦め交じりに笑って見せる。すると、肩をすくめた悠介が静かに筆を横に置いた。
「ここ最近のお前のプレー、中学の頃に似てたぜ」
悠介が筆の水を切って、栓を締める。
垂れ流されていた水流が一つ消えて、絶え間なく仕事を強いられていた排水口が息を吐くようにごおっと周りの水を吸いこんだ。
「じゃっ、先体育館行ってる。終わったら来いよ」
顔だけこちらに向けて言われた言葉。
返事は何も思い浮かばず、出来たのは曖昧な頷きだった。
悠介が去っていく。一人残された。水に手を叩かれ、服に飛沫が帰って来る。
熱くなってきた時期の水飛沫は心地良かった。水に冷やされた体は夏の日差しにも負けず冷え込む。対照的に俺の頭の中はぐるぐると熱い何かが渦巻いていた。
初めて悠介と会ったのは中学三年らしい。らしいというのは俺に覚えがないから。
夏の地区大会のことだろう。あの頃は確か監督の指示通りに、皆の期待通りに動いていたころ。虎視眈々とスリーポイントを狙っていたころか。
そして、高校で再開した悠介の第一声が「因縁のシューター野郎じゃん」だった。
ただ、その間にあったたかが学生の恋愛。
だけどそのたかがに毒された俺は、もう中学の立ち回りなどできなかった。
スリーポイントは遠くから撃つ分外れる可能性も高く、外せば攻守が入れ替わる。リバウンド――外れたボールを取れればいい話だが、当然味方へ負担がかかる。
外れた時の味方の視線が怖くなった。ただそれだけのしょうもない話だ。
技量で賄うという自信もなくなっていたのだ。
――期待に応えられない自分が嫌いだった。
いつまでたってもベンチの俺を悠介は待ち続けてくれている。
それは、とてもありがたくて……辛い。
「あーあ、一人の方が楽だなぁ……」
「突然話しかけてくるような人が言うセリフ?」
「おわっ!」
反射的に体がビクつく。持っていた筆を取り落として水が溜まった場所に着水。ぴちゃりと跳ねた水滴が頬にかかった。
不快感に目を細めながら隣を見れば、俺が使っている蛇口から一つ開けた場所で木藤が栓に手を添えている。満足いくまで塗り終えたらしい。
「……木藤か」
「そこまで驚かれる筋合いはどこにもないけど」
不服そうに眉をひそめ、頬が小さく膨らむ。なんとなく、前よりも表情の動きが豊かに見えた。
「いや、ちょっと。……それより、突然話しかけたって?」
「いきなり参考書渡してきたじゃない」
「あー……」
言われてみれば今しがたの発言とその行動は矛盾している。
けれど、それは発言と行動の話であって。
「一人の方が楽ってより、他人に期待をされるのが嫌いなだけ。人と一緒にいるのは嫌いじゃない」
言葉の真意と、内心を話す。
「……そう」
彼女はそれで納得してくれたらしく。小さく呟くと、栓をひねって細筆を洗い始めた。
沈黙。静寂。
どちらも似たような意味で、けれど違う。
試合に負けて、何かで塞がれたみたいに皆が口を開かないのが、沈黙。
必要もないからと各々が筆をからからと鳴らし、流れたり跳ねたりする水音のみが聞こえる今の時間が、静寂。
その差をうまく説明するには何かが足りなかった。俺がもう一歩を踏み出すにも必要な何かな気がした。
その何かは、木藤なら分かるかもしれない。でも、聞くと同時にこの無言の時間を壊してしまう。
躊躇して、持ち上げた足を元に戻す。足踏みを繰り返す。今なら牛歩にだって負けるに違いない。
「ねぇ」
俺が踏み出さなかった一歩。代わりに踏み出してきたのは木藤だった。
「ん?」
「いつも黒木さんといるんでしょう?」
「そうだけど」
「仲はよさそうに見えるのに……それでも一人の方が楽って言ったの?」
木藤にとって。いや、俺たちにとって、随分と踏み入った質問。
完成されたジオラマに人の模型が増える。まだ名前を付けれていないこの関係が揺れ動いた気がした。
質問の内容はあまり変わっていない。だから首を横に振る。
「言っただろ。誰かに期待されるのが嫌だって。悠介は中学の頃の俺を見ている。それが申し訳ないんだ」
「中学生の頃?」
「そのときの俺はスタメンだったんだよ」
「あぁ。バスケ部の話ね」
「そ」
説明不足だったなと思いつつ。粗方洗い終えた筆の水を切る。
ちらりと木藤の方を窺うと、筆先を水に浸らせたままじっとしている。
考え事か?
「あ、いた!」
だが、木藤が考えた何かを聞く機会はなかった。
遠くから聞こえた声がこちらに近づいてくる。
「えっと、二人だけ?」
駆け寄ってきたのは文化委員の中野。それと、あとから来た同じく文化委員の角町。
二人だけかを尋ねてくる。おそらくもう一人の……誰だったっけ……
「ええ、大空さんは帰ったわ」
そうそう大空だ。中庭で姿を見たのは数えるほどだが。
木藤も彼女が来ていないと言わず、帰ったという辺り優しい。
「立て看板かなり出来てるよね! 木藤さんに頼んで良かったよ!」
「え、俺は?」
思わず素で言ってしまった。サボった覚えはないはずなのに何故カウントされていないのか。
「あっ、勿論海崎もな」
角町がフォローを入れてくれたが、この状況で俺が含まれないのは信頼されていないように思える。いや、期待されすぎるのも嫌だが、これはこれで癪だった。
「……頑張ってたのは木藤だから間違ってはないよ」
だが、それはあまりにも我儘なので曖昧に苦笑するにとどめた。
「いえ、海崎さんも働いてくれていたわ。細かい作業は苦手みたいだけど」
すると今度は木藤からフォローが飛んでくる。流石に申し訳なくなってきた。
「ふふっ、みたいだね」
中野が俺と木藤が洗っていた道具の偏りを見ると、口元を抑えて笑った。その整った所作は木藤と似ている。氷のような尖った静かさを持つ木藤と、桜のような柔らかい静かさを持つ中野は似ているようで違っていた。
それはともかく、中野も角町も俺がきちんと働いていると思っていないらしい。
遅刻や欠席みたいなサボり魔感はないはずなのに。納得がいかない。
「あー……、教室はどうなんだ? 噂だとちょっと上手く纏まっていないらしいけど」
「――! えっと……そう。あんまりうまくいってない。やっぱり、皆ストレスたまってるっぽい」
びくりと体を震わせた角町がオドオドと言った。
どうしてそこまで怖がられているのか。何かした覚えはないはず……。
角町も委員になっているだけあって、コミュニケーションが苦手な手合いでもない。
それに、恐らく彼女であろう人の前でそれは情けないと思う。
「……海崎さんは思ってるほど怖い人間じゃないわよ?」
「え、聞き捨てならない言葉を聞いたんだけど」
そう思われていたのか?
思わず、木藤の方を振り返る。振り返った先の木藤はにぃっと悪戯な笑みを浮かべていた。
その表情も揺れる黒髪と相まっている。実に似合うのだからずるい。
「どうすれば人に迷惑をかけないか、よく考えている人間だから」
「……おい」
進んで暴露する奴じゃなかったはず。突然の行動にただ困惑する。
「ね? 存外にいじりがいのある人だから」
「……木藤?」
「確かにそうねっ」
「仕事もやってくれてるし……助かるよ」
はは、と乾いた笑みを浮かべる角町は随分と疲れて見えた。
横にで頷いていた中野もどこか元気がなさそうだった。
「そんなに進んでないのか?」
「進んでないことはないけど……余裕がないね。最悪出来なくても商品は出せるし問題はないよ」
頬を掻きながら恥ずかしそうに、申し訳なさそうに角町が言う。
聞く限り進捗は怪しい。だが、こちらも一人かけているので、時間に余裕がある訳じゃない。木藤の奮闘で予定より少し早いくらいだ。
――多少なら手伝う余裕があるか……
そこまで考えて、理解した。
確かに、中学の頃の考えだ。
余力があるかも分からないのに手伝う思考が出ることが。
失笑が零れる。目の前の二人が怪訝な顔を浮かべる。
すぐさま真顔に引き戻す。無礼講を正すため、口を開く。
「終わったら手伝いに行った方がいいか?」
そう尋ねると、角町が意外そうに目を見開いた。
「……立て看板をやってくれてる。それで十分助かってるよ?」
そういいつつも語気は期待に満ちている。
さしずめ猫の手でも借りたいような、そんな雰囲気。
何度も経験のあるその期待。
求められている答えは――
「余力はある。皆でやった方が楽だろ?」
「……助かるよ」
「海崎君、ありがとう!」
「立て看板が終わったらまたそっちに行く」
その後、しばらく他愛のない会話をしてから、文化委員の二人は教室に戻っていった。
「相変わらず、良い人、なのね」
先程の二人にとってはありがたいことだったはず。だが、この振る舞いは木藤が嫌うもの。出会い頭にその俺を嫌いと言った彼女からすれば思うところがあるのは違いない。
「木藤だって、表面上は良い人ぶってただろ」
少なくとも話に聞いてるほど冷たい口振りじゃない。喫茶店の氷くらい溶けないものじゃなくて、自家製の数分で解け始める頼りない氷と同じだ。
「処世術。それだけよ。相応の態度を取っただけ」
「ん、そうですか。……とりあえず、俺は部活に行くから今日はこれで」
ペンキ交じりの水に巻き込まれないよう流しの縁に置いていた筆を束ねて持つ。
「ええ、お疲れ様」
「ああ、お疲れ」
最後に見えた木藤の顔はとても柔らかい。けれど、別れ際の言葉は残念そうな声色だった。