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捨てられたひよっこ聖女の癒やしごはん~辺境の地で新しい家族と幸せライフを楽しみます!~  作者: 小蔦あおい
第3章 森で出会った仲間たち

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第10話



「アクアのお陰で冷たくて美味しそうなベリーレモネードが完成しましたよ。ありがとうございます」

 リズがお礼を言うとアクアは照れ笑いを浮かべる。

「イグニスもヴェントもありがとう。これで少しでも騎士さんたちの気分が良くなると嬉しいです」

 リズはスプーンを用意すると、ヴェントの力を借りて病室までピッチャーを持って行った。



 病室内は先程よりも苦しむ聖騎士たちの声が強くなっている。メライアが薬を全員に飲ませたのだろう。

 テーブルに置いてある薬瓶は空っぽになっていた。

 その側でメライアは教会から持ってきた氷を細かく砕いて氷枕を作っていた。

 妖精を引き連れたリズは彼女に近づいて話し掛ける。

「メライア、騎士さんたちにこのベリーレモネードを飲ませたいです。きっと毒に冒されてから水しか飲んでいないはずなのでこのままでは栄養不足になってしまいます」

「まあっ流石はリズね。素敵な案だわ。だけど私は今から氷枕を全員分取り替えないといけないの。リズが患者さんたちに飲ませてあげて」

「分かりました」

 リズは一番端のベッドへ移動すると側にある椅子に乗ってから、横たわる患者にベリーレモネードを飲ませることにした。


「このベリーレモネードを飲んでください。少しは気が楽になりますよ」

 しかし、声を掛けても患者は呻くだけで答えてくれない。試しにスプーンに少しベリーレモネードを入れて口へと運ぶが、飲んではくれずに口元から頬に伝って零れていくだけだった。


「どうしましょう。これでは飲ませることができません」

 途方に暮れていると、ヴェントが肩にちょこんと留まって口を開いた。

『大丈夫だよー。メライアとリズだけだと人手が足りないと思ったから、みんなにもお願いしておいたー』

「みんな?」

 はて。みんなとは誰のことだろう。

 この要塞は慢性的な人手不足に陥っている。猫の手も借りたいほど忙しいのに、誰が手伝ってくれるのだろう。

 きょとんとした表情を浮かべていると、イグニスが目の前にやってきて窓の外を指さした。


『みんなはみんなさ。僕たちを含む、リズを助けたい妖精たちのことだよ』

 すると、窓からはたくさんの妖精が室内に入ってきた。

 氷枕を作っていたメライアは驚いて悲鳴を上げる。

「きゃああっ! な、なんでこんなにたくさん妖精が!? 一体何が起こっているの?」

「メライア、妖精さんたちが手伝ってくれるみたいです」

「う、嘘? 妖精が?」


 一度にこんなにたくさんの妖精が手を貸してくれるなんて信じがたい。メライアは夢でも見ているのかと自身の頬を抓って確認を取っていた。

「ゆ、夢じゃ、ない……?」

「夢じゃありませんよ」

 それでもメライアは目を白黒させている。

 リズは集まってきた妖精たちに向かって声を掛ける。

「じゃあ、妖精さんたちお手伝いをよろしくお願いします」

 リズが頼むと、妖精たちは一斉にはーい! と手を上げて返事をする。


 彼らに新しい氷枕と古い氷枕を取り替える作業をお願いして、リズとメライアはベリーレモネードを患者たちに飲ませることにした。メライアが患者の身体をゆっくりと起こしてベリーレモネードを飲ませる。体勢が変わったことで、冷たい果実水は難なく患者の喉を通っていった。

 するとどうだろう。肌に浮き出ていた紫色の痣が消えていくではないか。


「わあっ、どうして? 紫色に浮いていた痣が消えていきますよ!?」

 何故こんなことが起きているのかリズにはさっぱり分からない。メライアに視線を向けると彼女も呆けているだけだ。

 ややあってからメライアは患者を寝かしつけると、足早に病室から出て行ってしまう。そしてすぐにヘイリーの腕を引っ張って戻ってきた。


「司教、これは一体どういうことですか? リズの作ったベリーレモネードを飲ませたら患者の紫色の痣が消えましたよ!」

 メライアは先程とは打って変わって、酷く興奮して、起きた現象について語る。

 痛み止めの薬を作っていたヘイリーは話を聞いて怪訝な表情を浮かべた。

「まさか。いやそんなはずは……」

 痺れを切らしたメライアはベリーレモネードを飲ませていない患者の身体を起こしてそれを飲ませた。紫色に浮き出ていた痣はゆっくりとではあるが引いていき、正常な状態へと戻っていく。



 ヘイリーは目を見張ると、自らもベリーレモネードに口をつける。それから少し考える素振りを見せたあと、患者全員にベリーレモネードを飲ませるように指示を出した。

 ベリーレモネードを飲ませたところ、全員が全員、紫色の痣も熱も引いてすうすうと穏やかな寝息を立てている。

 メライアは頬を紅潮させながら口を開いた。

「ね、ね? 私が言った通りでしょう? もしかしてこれは世紀の大発見なのでは!?」

 メライアはベリーレモネードには魔物の毒を解毒させる作用があるのではないかと考えている。

 ヘイリーはリズを一瞥すると口元に手を当てた。


「恐らくこれは……」

「司教!!」

 そこで言葉を遮るように大慌てでマイロンが現れた。

「司教、教会本部からの使者が到着されました。使者は司教クラスが来ると思っていたのですが、なんとお越しになったのは大司教と聖女ドロテア様です!」

「それは本当ですか!? ああ、直ちにこのことを報告しなくては!!」

 ヘイリーは声を荒らげるマイロンと共に病室から出て行ってしまった。


 マイロンとヘイリーの話を聞いたメライアは祈るように手を組んで天井を仰ぐ。

「嗚呼、ベリーレモネードの奇跡に加えて、こんな辺境地にわざわざ教会本部の重鎮が来てくださるなんて。……多大なる僥倖だわ」

 メライアが喜びの声を上げる一方で、隣に佇むリズはというと、大司教と聖女ドロテアという言葉を耳にしてただただ目を見張るのだった。



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