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第1話



 厳かな空気が漂う聖アスティカル教会本部の一室。

そこに、両手を前に揃えて鉄の手枷を嵌められ、簡素な麻のワンピースに身を包む少女が騎士に連れられて入ってきた。


 少女の視線の先には壇上があり、七人の聖職者が一列に並んでいる。中央には大司教、その両脇には三人ずつ司教が立ち、どの聖職者も普段信者に向ける温厚な表情とは打って変わって、唾棄すべき存在として少女を見下ろしている。


 大司教は丸められていた羊皮紙を広げると冷淡な声で内容を読み上げた。

「評議会で検討した結果、聖杯を壊したリズベット・レーベは、妖精界への追放を命ずる!」

「……っ!!」


 評決を聞いて肩を揺らす少女――リズベットことリズは言葉を詰まらせた。

(妖精界への追放? そんなの冗談じゃありません)


 妖精界は人間の肉体では行くことのできない別世界。そこへの追放ということはすなわち、死を意味する。

 顔を真っ青にするリズは震える唇からなんとか声を絞り出した。

「……何度もお伝えしていますが、私は聖杯を壊してなんていません。無実です」


 すると司教たちが「この期に及んで白々しい」「往生際が悪いにも程がある」「いい加減、罪を認めよ」「おまえが犯人であることは証明されている」などと口々に非難する。

 大司教は周囲を見回してからやめるよう手で制すと、リズへと視線を戻した。


「いくら聖女・ドロテアの姪だとしても看過することなどできない。おまえが壊した聖杯は大事な聖物――秘宝だった。教会にとって、ひいてはアスティカル聖国にとって聖物の破壊がどういう意味を持つことなのか……聖女の姪であるおまえなら分かるはずだ」


 アスティカル聖国は大陸の南西部に位置し、妖精界の入り口が唯一ある国だと言われている。その理由は妖精と対話し、彼らから力を借りることができる妖精の愛し子――聖女が存在するからだ。


 妖精の愛し子と言われる聖女は、彼女の語りかけによって妖精たちから莫大な力を借りられる。愛される聖女であればあるほど、その力は強大となる。

 周辺諸国からすれば多大な脅威となるので聖国は一目置かれた存在となっていた。


 聖女は聖国の十代半ばから二十代の乙女に限り、その身に力が宿るとされていて、次の聖女が現れると現聖女の力は自然と衰えていく。

 本来は数年で次の聖女と交代をするがここ十年はずっとリズの叔母であるドロテアが担っていた。



 先程大司教が言っていた教会にある秘宝とは、妖精たちから賜った聖物のことで、リズが壊したとされている聖杯は雨を降らす力を持っていた。


(どうしてこんなことになってしまったのでしょう。私は決して聖杯を壊していませんのに……)



 絶望に染まる青い瞳を閉じ、リズはこれまでのことを振り返った。



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