ラジオから聞こえた声
あたしは真夏――八月のとても暑い日に不可思議な体験をした。
ある日、自宅にてラジオを聴いていたら。ザザザーと何故か雑音が入る。そして最初はよくわからなかったが。時間が経つ内にか細い女性の声が聞こえたのだ。
『……タ、タスケテ……』
それを聞いた瞬間にあたしは身の毛がよだつ思いがした。急いでラジオのスイッチを消す。背筋は冷えるし肌は粟立っていた。心臓がバクバクと鳴り呼吸が早い。冷や汗もダラダラとかいていた。
「……な、何なのよ。さっきのは」
『……ワタシノコエガキコエタノ?』
不意に後ろから先程とそっくりな女性の声がした。ゆっくりと振り向いたらそこには血だらけの真っ白なワンピース姿の髪が長い女が立っている。顔はニタリと笑っていた。
「い、いやーーっ!!」
『ソンナニコワガラナイデ。ナニモシナイワ』
「……そ、そんなの。信用できないわよ!」
あたしは後ずさりながらも言う。情けないが震えが止まらない。女は困ったように首を傾げた。
『ワタシハイワユルフユウレイダカラ。ナガイアイダハイラレナイワ』
「本当に?」
『エエ。ワタシハネ。イマハコンナダケド。イキテイタトキハカレシモイタノヨ』
そう言うと女は悲しげに笑ったように見える。どうやら危害を加える気はないようだ。
『……ケレド。アノヒトハ。ワタシヲウラギッタノ。ベツノオンナトウワキヲシテ。ワタシは捨てられたわ』
「あ、あの。幽霊さん?」
『ああ。憎い。憎いわ!私を捨てて別の女に乗り換えたあの男が!!』
女もとい、幽霊さんは髪を振り乱して凄い形相で叫ぶ。あたしを置いてスウと消えてしまったのだった。
あれから二週間が過ぎた。何気なくラジオをまた聴いていたら。あの幽霊さんが再び現れた。けど以前みたいに血まみれではなく着ている服もオレンジ色のワンピースで。一瞬、誰かわからなかった。
『……久しぶりね。お姉さん』
「……久しぶり。幽霊さん」
幽霊さんはあたしを見てにっこりと笑いながら挨拶する。あまりの見違えように戸惑う。
『あなたが話を聞いてくれたおかげであの男の居場所を突き止められたの。ついでに復讐をしてやったわ』
「復讐ですか。あの。どうやって?」
『……ふふっ。あの男の今の恋人に私がされた事を洗いざらい話してやったわ。もちろん、思いっきり怖がらせながらね!』
あたしは何とも言えない気持ちになった。まあ、元を正せば。浮気をしてこの幽霊さんを捨てた男が一番悪い。ただ、巻き込まれたという恋人の女性には合掌するしかないが。
『あー。スッキリしたわ。あの男ね、恋人に頬をビンタされて。すぐにフラレていたの。いい気味だわね!』
「さいですか」
『さてと。私もこの世にいられる時間は短いんだったわ。そろそろお暇するわね。お姉さんにも良い人が見つかるようにあの世で祈っているわ』
「……ありがとう。幽霊さんも元気でね」
『ええ。さようなら』
幽霊さんは軽く手を振りながら透明になって。スウと真っ白な光と共に消えてしまった。あたしはラジオを聞きながらも立ち上がる。
窓辺に行き、窓をガラリと開けた。空にはぽっかりと満月が浮かんでいる。幽霊さんがどこかで飛んでいるかなと思いながら眺めたのだった。
――終わり――




