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Ep.3-52

翌朝――と言っても、シャールが眠りについてから三時間も経たない時分。エリオスに起こされて、シャールはゆるゆると起き上がった。窓から見える空には、分厚い雲が立ち込めていて、夜が明けたのをいまいち実感できない朝だった。

眠い目をこするシャールに、エリオスはソファに座って紅茶を嗜みながら笑いかける。


「この後、国王サマが王都の民たち――まあ、生き残っている者に限るけど――を城門前の広場に集めて、御前会議で決まったことを布告するらしい。で、私はそれに出席するわけなんだけど、君も来てもらえる?」


遊びに誘うかのような気安さで誘いをかけるエリオスに、シャールは怪訝そうに眉を顰める。本当であれば、そんなことよりもいち早くしたいことがシャールには他にあった。それでも、心のどこかで彼についていくべきだという焦燥にも似た感情がくすぶっていた。

シャールがこくんと小さく頷くと、エリオスはにっこりとほほ笑んでテーブルの上に並んだもう一つのティーカップに紅茶を注ぎ入れる。


「今朝はスコーンと紅茶を出してくれたから、一緒に食べようじゃないか。ああ、でも食べ過ぎないようにね。気分が悪くなっては大変だし」


くすくすと笑いながら、エリオスはそう言ってシャールに椅子を勧める。シャールは、そんなどこか上機嫌なエリオスの顔を釈然としない顔で見つめながら椅子に座ると、拳ほどの大きさのスコーンにかぶりついた。



§   §   §



数刻後、エリオスとシャールは王城の中層階、城門前の広場を見下ろすテラスに立っていた。ここは、広場に集まった臣民たちに、国王や王族が語り掛けるためのある種の舞台でもあった。

眼下の広場は、石畳が放射状の円形に広がりその中心には水の枯れた噴水がある。そんな広場を今、たくさんの人々が所狭しと埋め尽くしていた――皆、王都の民だ。老若男女問わず、赤子やけが人すら集められていた。そんな彼らの周りを兵士たちがぐるりと囲んでいる。

シャールはちらと、テラスを見渡した。

テラスにはシャールたち二人だけでなく、新王のファレロや御前会議のメンバーである貴族たち、そして数人の騎士たちが立ち並んでいた。

そんな中、一人の騎士がファレロ王に近寄り、耳打ちする。


「王都の民、全員の参集が完了しました」


「何? ――これだけか?」


ファレロ王は慌てたような口調で、騎士に聞き直す。

確かに、広場にいるのはとんでもない人数ではあるが、王都に住む全臣民としてはずいぶんと少なく感じられた。

問われた騎士は唇を噛みながら、小さく頷く。


「王都の民の約半数以上は、昨晩のうちに……」


そう言って、騎士はエリオスとシャールの方を睨みつける。エリオスはそれに気づくと、ひらひらとその騎士に向かって微笑みながら手を振って見せた。騎士は、あわや剣を抜きかけたが周りの貴族たちがそれを必死になって取り押さえ、テラスから引きずり出した。


「――我が騎士が無礼を……」


ファレロ王は複雑な表情を浮かべながら、エリオスに頭を下げる。そんな彼を横目に見下ろしながらエリオスは鼻を鳴らした。


「それより、はやく始めよう。そして私と彼らに聞かせておくれ――君の出した答えを」


エリオスはそう言って、唇の端を吊り上げた。

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