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Ep.3-50

「どういう、つもりですか――」


不意に口を開いたシャールに、エリオスはテーブルの上のサンドイッチに伸ばした手をぴたりと止める。

玉座の間での、新王・ファレロとの謁見の後エリオスとシャールは王城の中に数ある客間のうちの一つにに通された。ペールグリーンの明るい壁紙には精緻に書き込まれた本物と見紛うような風景画や、歴代の王や英雄の肖像などが豪奢な額縁をつけて飾られている。バルコニーに通じる大窓も、染み一つない白いレースのカーテンが引かれている。

平民の生まれのシャールからすれば、一生縁のなかったであろうような豪華な部屋。天蓋付きのベッドは、ともすればエリオスの館にあるものよりも質がよさそうで、アリキーノが襲撃してきたときから一睡もしていないシャールとしては、すぐにでもベッドに飛び込みたい気持ちでいっぱいであった。それでもそうしなかった、そうできなかったのは偏に先ほどのエリオスの不可解な振る舞いのせいだった。

睨みつけるような視線を送るシャールに、エリオスはきょとんとした顔を浮かべる。


「どういうつもりって――どういう意味?」


エリオスは、そう言いながら改めてサンドイッチを手に取ると、両手でちょこんと掴みながらリスのような仕草でそれを口に運ぶ。自分を揶揄っているのか、それとも素なのか。シャールには判断のしようがなかったが、そんな彼の仕草がどうにも癇に障った。

それでもシャールは努めて冷静に、エリオスの瞳を真っすぐに見据えながら問いかける。


「とぼけないでください。あんな貴方らしくない、貴方の言うところの悪役(ヴィラン)らしくない提案――何か裏があると思って当然です」


「へえ――君も少しは私という人間の在り方が理解できるようになってきたわけだ」


ひどく楽しそうに目を細めながら、エリオスはからからと笑う。それでも、シャールが動揺の一つすら示さないのを見ると、打って変わってひどくつまらなさそうな顔を浮かべて子供のように唇を尖らせる。そんな彼を睨んだまま、シャールは言葉を続ける。


「ファレロ王にどんな条件を突きつけたんですか。一体どんな悪辣な――」


「ひどい言いようだなあ。ま、それも一周回って悪役たる私への信頼かな? というか君、自分の祖国が私に滅ぼされずに済むかもしれないっていうのに、嬉しくないの?」


「貴方に善意だとか、人間の心が残ってるなんて――そんな可能性微塵も信じていないもので」


『奪ったのなら奪われる覚悟をするべき』――そんなことを普段から言っているエリオスが、ここまで来てその信念を曲げるはずがない。この先には、もっとひどい未来が待っているんじゃないか――そんな確信めいた焦燥がシャールの胸の中に焼き付いていた。

どうすればいいのか、自分に何が出来るのか――そう問われてしまうと答えに窮するところではある。しかし、それでもシャールには黙って()()()が来てしまうのを待っていることなどできなかった。


「だいたい、私に今もこんな役を押し付けている貴方が――」


シャールはそこで言葉に詰まり、ちらと部屋の片隅に置かれた椅子を見た。その上には、丸い鏡――先ほどからずっとシャールが持っていたもの――が立てて置かれていた。

シャールはそれを見て、複雑な表情を浮かべながらかぶりを振った。

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