Ep.3-48
「私への、謝罪?」
エリオスは、皮肉っぽい笑みを浮かべて聞き返す。そう問うたエリオスに、ファレロ王は重々しく頷いたかと思うと玉座から降りてずかずかとエリオスに近づいてくる。
「そう! そうなのだ!」
ファレロ王はエリオスの右手を取ると、それを強く握りしめて媚びるような目を彼に向ける。突然の行動に、エリオスは表情を引きつらせる。
「ちょ――」
「貴公の居館にアリキーノ子爵を差し向け、蛮行を働いたこと――すべて我が父の独断、乱心であったのだが――貴公がこの国に攻めてきたことで、我が父はその罪深さと貴公の怒りの激しさに気付いたのだ!」
暑苦しいほどの勢いで流れるように語るファレロ王に、エリオスは不快害虫でも見るかのようなドン引きの表情で固まっていた。想定外の対応に、どのような態度をとるか測りかねているのだろう。助けを求めるような顔で、ちらとシャールの方を振り返るが彼女に何が出来るわけでもない。
心底嫌そうな表情を浮かべるエリオスに対して、ファレロ王はそれを気に留めることもなく話を続ける。
「己の犯した罪の重さ、そして民や兵の命をこれ以上損なうことを恐れた我が父は、その一命で以て貴公の怒りを解こうとして、自ら首を切ったのだ! それゆえに、第一王子であった私が緊急的にではあるが王位に就いた――これは、父より私に託された使命だ!」
舞台役者がセリフを歌い上げるかのように大袈裟に、ファレロ王は演説する。その言葉は、エリオスに対するモノというよりは、どこかこの場に集う貴族や王族たちに向けているようにシャールには見えた。
エリオスは、うんざりしたような顔をして、空いた左手で頭を掻きながらため息交じりに問いかける。
「あー……それで? 何が言いたいの?」
鬱陶しげにそう言い放ったエリオスに、ファレロ王は僅かに表情を歪ませる。しかし、すぐにそんな表情は消えて元の真面目くさった顔に戻る。そして、薄氷を履むがごとく言葉を一つ一つ選ぶようにして、エリオスに提案する。
「我が父——マラカルド3世の命と覚悟を代価として、此度は矛を収めてはもらえないだろうか」
「――ふうん」
エリオスはどこか退屈そうな表情で、うっすらと笑みを浮かべながらファレロ王の言葉を聞いていた。その反応の薄さに、ファレロ王は少し焦ったように言葉を続ける。
「もし貴殿が欲するのなら、貴族としての地位を与えてもいいし、魔術師としての研究資金や設備もいくらでも援助しよう。他にも欲しいものがあるのなら――」
「ねえ、君さぁ――」
ファレロ王の言葉を遮るようにエリオスが声を上げた。わずかに唇を尖らせて、退屈に拗ねた子供のような顔でエリオスはじろりとファレロ王の顔を舐めるように見つめる。ファレロ王の目には、どこかその瞳が父王の視線と重なって見え、思わず息を呑んだ。
そんなファレロ王に、エリオスは嗜虐に歪んだ笑みを浮かべて言い放つ。
「私はさ、君たちから何かを貰いたくてここに来たわけじゃない――この国を滅ぼしたいからここに来たんだ。分かる?」




