表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/638

Ep.3-47

「こ、国王陛下の御成りです!」


緊張したような声で、若い儀仗兵が叫んだ。その瞬間、列席する騎士や貴族、王族たちも一斉にその場にひざまずく。そんな中、エリオスとシャールだけがその場に立ったままでいた。

二人に、その場の視線が集中する。何故跪かないのか、そう咎めるような視線だった。しかし、それを意に介するエリオスではなかったし、シャールもまたこの国の王に跪くような気持ちにはなれないでいた。

次の瞬間、玉座の裾から一人の男が現れた。

コンドルのような痩身と、ぎょろりとした眼、肩まで届くかというような金髪を揺らした男の姿に玉座の間がわずかにどよめく。そんな中、男は玉座に座りエリオスに語り掛ける。


「お待たせした。私――いや、余がこの国の王。ファレロである」


男――ファレロ王は重々しくそう言った。

その瞬間、玉座の間のざわめきは一層高まる。その中心で、首を傾げながらエリオスが口を開いた。


「おや。確かこの国の国王はもっとずっと老いぼれていると聞いていたんだけどね……あとは名前も……」


「まずはその件について、この場で説明させていただこう。よろしいかな、エリオス・カルヴェリウス殿」


ファレロ王がそう訊ねると、エリオスは腕を組み心底嫌そうな表情をしながらも小さく頷いた。

そんな彼の反応を見て、ファレロ王は苦笑を漏らしながら口を開く。


「先ほど――先王、マラカルド三世が崩御された」


酷く悲しげ、とでも言うかのようなわざとらしい表情と声でファレロ王はそう告げた。列席した王族や貴族たちからは、悲痛な声が上がる。そんな彼らの様子を頷きながら見渡しつつ、ファレロ王は軽く手を打ち鳴らす。


「ここへ――」


ファレロ王のその声が響くやいなや、エリオスたちの背後――玉座の間の扉が開き、数人の兵士たちが何かを運びながら入って来る。それは紅い絨毯だった。兵士たちは、その四隅を掴んで、輿のように宙に浮かせながら、慎重にそれを玉座の間へと運び入れる。そんな彼らが運ぶ絨毯の上には、ナニカが転がっていた。

そのナニカの正体が分かった瞬間、数人の姫君たちが悲鳴を漏らした。その絨毯の上に転がっていたのは、血にまみれた老人の亡骸だった。シャールはその老人に見覚えがあった。シャールは唖然とした表情でぽつりと零す。


「国王陛下――」


そこに横たわっていたのは、大陸の覇王として恐れられたマラカルド三世だった。

シャールはその亡骸を見ながら、ルカントたちとともに、勇者一行として旅立つに際し王城へやってきた際に拝謁した彼の姿を思い出す。老いていながらに、獅子のような獰猛で野心深く、それでいて力強い光を宿していた瞳――今や、その瞳からは輝きが失われている。


「――自害した、のかな?」


エリオスはじろじろとマラカルド三世の亡骸を見ながらそう言った。

マラカルド三世の亡骸の手には、儀礼用の細身の剣が握りしめられ、その刃が深々と皺だらけの首筋に食い込んでいる。遺体の様子だけを見れば、首を斬って自決したと考えるのが自然だろう。

ファレロ王は、エリオスの言葉にいかにもと言わんばかりに、いかめしい顔で頷いた。


「その通りだカルヴェリウス殿。わが父、先王は自害されたのだ――貴公への謝罪、そしてけじめとしてな」

毎度のお願いではありますが、拙作をお気に召して頂けた方は、評価、ブックマーク、感想等をお願いいたします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ