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Ep.3-45

もう梅雨入りですかね……

「――そうですか。なら私も邪魔な駒を排除するとしましょう」


ファレロがにやりと笑ってみせたのを見て、マラカルド王は一瞬たじろいだが、直ぐに剣に力を込め直して振り下ろす。その隙に、ファレロは自身の腰の剣を抜き放ち、父親の振り下ろした一撃をすんでのところで弾いた。マラカルド王はその反動で、ぐらりとよろめいた。


「――ッぅ!」


ファレロは、姿勢を整えて父親に剣を向けなおす。そんな彼を、睨みつけるマラカルド王の口元は少し笑っていた。


「くく、老いたとは言えかつては戦場を駆けたこの余を、果たしてお前ごときが討ち取れるかな?」


悠然と笑って見せるマラカルド王に、ファレロは小さく舌打ちする。どこまでも、父親は自分を侮っているのだと、そんな事実を突きつけられ、彼のプライドは酷く傷つけられる。しかし――


「ええ、きっと私には貴方を倒すことはできないでしょうねえ。私には」


ファレロは引きつった笑みを浮かべてそう言った。その瞬間、マラカルド王は何かに気付いたようにびくりと身体を震わせ、初めて焦りの表情を浮かべる。そんな父王の焦燥を眺めながら、ファレロはもったいぶったようにぱちんと指を鳴らす。乾いた音が響いた途端、執務室のドアが開き、十数人の男が乱入する。全員剣を構え、簡素ではあるが鎧も身に付けている。


「取り押さえろ――殺すなよ。傷もできる限りつけるな」


ファレロは男たちに目を遣ることもなく、冷たくそう言い放った。

数瞬の後、マラカルド王は抵抗する間もなく取り押さえられた。例えば、ワインを飲んでいなければもしかすると、何人か切り伏せることが出来たのかもしれないが、酒精に痺れた老体には叶わぬことであった。


「貴様ら――」


マラカルド王は、自分を取り押さえる男たち――先ほどまで御前会議の場にいた高級宮廷貴族たちの顔を一人一人見渡して、表情を歪める。


「皆、貴方の専制には不満がたまっていたのですよ、父上。だから、私に彼らは協力してくれた」


ファレロは床に組み伏せられた父を見下ろしながらニタニタと笑ってそう言った。

マラカルド王を取り押さえる貴族たち――かねてよりのファレロの取り巻きだけではない。御前会議場に集っていた貴族が皆このクーデターに参加している。それほどまでに、父王と貴族たちとの間には見えない亀裂が走っていたのだ。

レブランク国王・マラカルド3世――大陸の覇王と呼ばれた彼の苛烈さは、他国に対してだけでなく、自国内の貴族たちにも向けられていた。その強権的な辣腕ぶりは、時に貴族たちから様々なものを――例えば領土や家禄、権限――奪ってきた。

そんな彼に今まで反旗を翻す貴族がいなかったのは、ひとえに彼が指導者として、支配者として強力な基盤を持っていたから。

しかし、エリオス・カルヴェリウスが攻めてきたことで、その力には陰りが生まれた。


「貴方にはここで死んでいただく。その骸で以て、私はエリオス・カルヴェリウスとの交渉に臨むと致しましょう――レブランク王国の新たな国王として」


「どのような筋書きで、そんな真似をするのか――聞かせてみろ」


絶体絶命の絶望的な状況にありながら、マラカルド王は唇の端を吊り上げて問いかける。それは、まるで教師が教え子に接するかのような冷静さで、それがファレロの癇に障った。しかし、ファレロはあくまで余裕を取り繕うように引きつった笑みを浮かべる。


「偉大にして慈悲深い国王陛下はその一身で以て、民と国を救うためにエリオス・カルヴェリウスにその命を捧げ、自害した――そういう筋書きですよ。ご安心を、貴方の名誉は損なわせませんよ」


ファレロはくつくつと笑いながらそう言った。

――今回のクーデターを実行に移すことができた一番の要因。

それは、ひとえに「王が突如死ぬ」という異常事態に対する最高の口実が出来たことだった。その口実と、第一王子であるファレロが王の暗殺を提案したという二つの要因がこのクーデターに参画するよう、貴族たちの背を押したのだ。恐らく、この二つの要因が揃わなければ、保身を最も重視し、リスクを何よりも厭う彼らがこの企てに参加することはなかっただろう——たとえ、どれほどマラカルド王に不満を抱いていたとしても。

マラカルド王は、「ほう」と歎息を吐いた。


「なるほど。少しはマシな策を立てられるようになったらしい……尤も――」


唇の端を吊り上げながら、滔々と語るマラカルド王の姿に、ファレロは強く歯噛みする。そしてその言葉を遮るようにして、強く握りしめた剣の刃をマラカルド王の首筋に当てる。そして――


「説教は結構。さようなら父上――」


そう呟くように吐き捨てて、ファレロは父王の首筋に刃を食い込ませた。

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